今、なぜフェアトレードが必要なのか
〜フィリピン「プレダ基金」からの報告〜

<ピープル・ツリー2002年春夏号記事より>

1969年、フィリピンのマニラから北へ3時間、米海軍スービック基地の町として知られるオロンガポ市に赴任したシェイ・カレン神父は、貧富の格差やさまざまな社会問題を目の当たりにしました。地元の金持ちが軍人相手の娯楽施設にどんどん投資する一方で、貧しい人々の生活は苦しく、大人ばかりか子どもたちまでもが軍人相手に身体を売って生計を立てざるを得ないほど窮乏していたのです。1974年、カレン神父は、麻薬や売春によって傷ついた人々の心と体の治癒とリハビリテーションを支援するために「プレダ基金」を設立しました。

プレダ基金は、児童買春の犠牲となった子どもたちを救い出し、社会復帰を支援する一方、買春の加害者を法廷で裁く運動や、世界規模の児童買春撲滅キャンペーンを行っています。また、売買春の原因となる貧困の根を絶とうと、人々が自分たちの手で商品を製作・販売して自立することを支援し、地域の発展を促しています。カレン神父は、子どもたちの保護やフェアトレード・プロジェクトの運営に奔走するばかりでなく、ADB(アジア開発銀行)がすすめる電力プラントの建設によって不当に土地を追われた人々のために声をあげるなど、社会活動家として積極的に活動しています。

貧困がもたらすさまざまな問題を解決するために、フェアトレードがどのような役割を果たせるのか−シェイ・カレン神父に、プレダ基金の活動とフェアトレードの意義について報告してもらいました。

●最も下劣な犯罪「児童買春」

私が初めてジェンマを見かけたのは、彼女がまだ14歳の頃でした。フィリピンの首都マニラから北へ100キロほどのところにあるアンヘレス市の安酒場で、ジェンマはビキニ姿で名札をつけられ、ステージの上で体をくねらせていました。彼女の身体は、堕落した男たちの欲望につけこむ最も下劣な商売「児童買春」のために、「生きた肉体」という商品にされていたのです。私の役目は、彼女のような子どもたちを不正の巣窟から救い出し、安全で尊厳ある暮らしを始められるよう支援することです。

ユニセフ(UNICEF: 国連児童基金)の最新の調べによると、売春を強いられている子どもは、現在フィリピンだけでもおよそ10万人、世界中では100万人に上ると推定されています。高い金を払う客は、主にヨーロッパ、オーストラリア、北米、日本などの先進国からやって来ます。子どもたちは、高度に組織化された買春斡旋業者によって売買され、人間としての尊厳をずたずたにされ、時には、性病やHIVに感染させられたまま見捨てられるのです。私たちは、このように傷ついた子どもたちを救うだけでなく、できるかぎり未然に防ごうと闘っています。

私は1974年に、子どもたちを虐待から守るために「プレダ基金」を設立しました。ジェンマは、プレダ基金のソーシャルワーカーによって酒場から救い出され、施設に保護されました。今では、彼女はすっかり立ち直って元気に学校へ通うようになり、尊厳ある暮らしと、明るい将来を取り戻しました。プレダでは、犠牲となった子どもの心の傷が癒えてから、本人が望む場合には、虐待した相手を法の下で裁くように法律面での支援も行っています。これまでに、私たちが買春者を起訴し、法廷で有罪に追い込んで長期の刑が下された成功例もあります。しかしこの仕事は、逆に買春者に怨まれて仕返しをされることもあり、大きな困難を伴います。

●グローバリゼーションがもたらす貧困

問題が起きてからの対処療法より、事前に防止することが大切です。フェアトレードは、これ以上ジェンマのような貧しい村の子どもたちが買春斡旋業者にだまされることのないように歯止めをかける、大変重要な役割を担っています。住み込みのメイドの仕事があると偽って誘い出す斡旋業者に、子どもたちがいともたやすく絡めとられてしまうのは、貧しさが根底にあるためです。不公正な貿易と、毒のように広がる「グローバリゼーション」によって、貧しい人々は村から都市へと押し流されてさらに搾取され、富める層と貧しい層との格差はますます広がるばかりです。「南」の小規模農家の人々は、作物をつくっても公正な価格を受け取ることができません。というのも、「北」の先進国では、政府が自国の農家を保護するために多額の補助金を支払っており、安価で作物を輸出できるからです。フィリピンでは、多国籍企業によって「北」からの安い作物がどんどん輸入されるために、国産品が姿を消しつつあります。その結果、農業を営む人々は貧しい暮らしを強いられ、農村では最低限の生活に必要な基盤すら整わなくなっているのです。

ジェンマは、制服や教科書を買うお金も、通学のための交通費も出せなかったために、学校を続けることができませんでした。食べるものもなくなり、彼女は仕事を見つけて弟や妹たちを助けようと決心して家を出ました。ところが、アンヘレス市の路上で買春斡旋業者の手に捕えられ、他の多くの少女たちと共に無理やり児童売春宿に入れられたのです。偽の書類には彼女の年齢は18歳と書かれており、賄賂を受け取った地元の警察は、売春宿を摘発したり、彼女の実際の年齢を調べることもありませんでした。

●真の解決のためのフェアトレード

このようなひどい問題を解決するには、真の意味での「経済発展」が必要です。本当の発展とは、汗水流して農作業にいそしむ人々に適正な賃金が支払われ、村で豊かな暮らしを続けられるようになること、そして子どもたちが安心して学校に通い続けられるようになることです。フェアトレードが支えるのはまさにこのような発展であり、その実績は、プレダ基金が行なっているドライマンゴの貿易に見ることができます。

プレダがフェアトレードでマンゴの取引を始めたことで、ここ数年、マンゴの果実の価値が急速に高まりました。マンゴというのは、どんな小規模農家でも1〜2本は植えており、ほとんどの農民が収穫できる果物です。しかしこの風味豊かな果物の価格は、製造業者のカルテルによって低く押さえられていました。小規模農家たちは、他に適正な価格で買い取ってもらえる販路もバイヤーもなく、業者に売らなければせっかく収穫した果実が腐ってしまうために、やむなく相手の言い値で販売していました。ところが、プレダが公正な価格で買い付けるようになったために、多くの農家や組合が徐々に潤い始めました。

プレダが適正価格の実績をつくったことで、カルテルはすっかり威力をなくし、プレダに売られる量が増えるにつれ、マンゴが不足し始めました。そこで、他の輸出業者や加工業者は急いで農家に駆けつけ、必要な量のマンゴを手に入れるために、より高い価格を提示しなくてはならなくなりました。こうした競争によってマンゴの価格が上がり、貧しい農家に恩恵がもたらされるようになったのです。ジェンマのような子どもをもつ貧しい家族が適正な賃金を得られるようになれば、子どもたちはみな学校へ行くことができるようになります。村にいながら暮らしに必要なものをそろえることができれば、農家の人々が町へ移住することも少なくなり、子どもたちは家族と共に暮らし、勉強を続けることができるのです。

ドライマンゴを各地のフェアトレード組織に販売することで、プレダはカルテルのバイヤーに太刀打ちできるほどの強力な競争相手となってきました。適正な価格をフィリピン全土で広く提示することによってマンゴの価格を引き上げ、それが農家全体によい影響をもたらしています。プレダが取引しているマンゴ農家はおよそ230軒にのぼりますが、全ての農家を個別に支援しているわけではありません。例えば、ミンダナオ島のマンゴ農家の多くは、誘拐や盗みが多発する危険な地域に暮らしているため、私たちは訪れることができません。その代わり、農家にマンゴの苗木を送ったり、利息なしで貸付を行うなど、資金面での支援を行なっています。

●環境を守るフェアトレード

広い地域にわたって栽培されているマンゴの木は、環境にもよい影響を与えています。マンゴと共に育つ他のさまざまな樹木の中には、土壌の侵食を防ぐ働きをする低木もあります。多様な鳥や爬虫類をはじめとする野生生物や草花が、マンゴの森に戻り始めています。マンゴの木は神聖なものとされ、発電所や高速道路の開発をすすめる建設会社以外、誰もその木を切るものはいません。

プレダがピープル・ツリーに届けているドライマンゴは、自然栽培のマンゴ果実を人の手で摘み、無添加で加工したものです。市販のドライマンゴの多くに使われる、色をきれいに見せるための漂白剤や発色剤、日持ちをよくする保存料など添加物を一切使わず、保存料の代わりにマンゴジュースと砂糖を混ぜたシロップに浸けて加工しています。プレダ基金では、もともと自給自足の自然に近い暮らしを続けてきた先住民族のマンゴ農家たちを支援し、技術研修をおこなうなど、有機・自然農法の復興に取り組んでいます。

このように、フェアトレードが発展を支えることで、フィリピンの農村に住む貧しい人々の暮らしは大きな変化を遂げています。フェアトレードは、マンゴの公正な価格を守って農民たちの生活を支援するだけでなく、ドライマンゴやジュースの販売によって、ジェンマのような何百人もの貧しい子どもたちが買春斡旋業者の悪の手に陥るのを防いでいるのです。

平和を手に入れるためには、正義が実現するよう努力しなくてはなりません。フェアトレードは、フィリピンの貧しい人々に正義と平和をもたらす、非常に有効な手段の一つなのです。

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