「世界フェアトレード・デーにSDGsを考えよう!」
~イベントレポート後編~
「世界フェアトレード・デー」の5月11日(土)、グローバル・ヴィレッジ/ピープルツリー、世界から児童労働をなくす活動に取り組む「認定NPO法人ACE」、サステナブルな繊維の普及活動を行う「テキスタイル・エクスチェンジ(TE)」の三者で共催した「世界フェアトレード・デーにSDGsを考えよう!~オーガニック&フェアトレードコットンの現場から~」のイベントレポート後編では、各講演の概要とパネルトークの様子をお伝えします。
レポート前編はこちら
=第一部:講演・発表=
【講演1:コットン畑で何が起こっているの?~農家の経験から~ テキスタイル・エクスチェンジ(TE)代表 ラレー・ペッパー氏】
私はアメリカ・テキサス州のコットン農家の5代目で、1990年代初頭に祖父がオーガニックコットンの栽培を開始しました。祖父から受け継いだ遺産を子や孫に伝えていきたいと考えてオーガニック農法を続けています。
2002年にTEの前身組織を共同設立しました。TEは世界のテキスタイル産業が生産や流通の過程で環境への害が少ない繊維を増やせるよう、企業にヒントを与え実行を働きかけています。オーガニックや環境再生型の繊維によって、環境に害を与えないだけでなく積極的に環境を癒すという継続的な流れをつくりたいと考えています。TEの加盟企業は320社以上にのぼり、うち17か国の111社が「プリファードファイバー(環境や社会にとってより好ましい繊維)」の使用を増やすよう目標を立てて実践に取り組んでいます。
みなさん一人ひとりにできることがあります。自分が今日どんな服を着るかという選択が、他の人の暮らしに影響を与えることを知ってください。
オーガニックコットンは、世界23か国、110の農家グループによって栽培されています。従来の農法とオーガニック農法の違いは、「従来の農法は『死』、オーガニック農法は『生』」だと思います。草や虫や微生物を殺す従来農法に対し、有害な物質の使用や排出が少ないオーガニック農法では、農地や動植物、その土地で働く農民、そこで遊ぶ子どもたちにとっても安全なのです。
TEの「オーガニックコットン・マーケット・レポート」2018年版によると、世界のオーガニックコットンの生産量は前年より10%増加して11万7千トンあまりになり、47万ヘクタールの農地がオーガニック認証済みで、21万ヘクタールがオーガニックに移行中です。
オーガニックコットンは、「ライフサイクルアセスメント(環境影響評価)」においても優れています。従来農法のコットンに比べてCO2の排出や水の使用が少なく環境への負荷が低くて済みます。またサステナビリティ(持続可能性)の面からもオーガニックコットンが有益であることが示されています。オーガニックコットン農家は同時に作物を栽培して販売したり、フェアトレードなどの労働環境の基準を持っています。72%の農家組合がオーガニックコットンの栽培によりコミュニティが恩恵を受けたと報告しています。
オーガニックコットンの普及は、生産者、小売業者、消費者が一体となって問題の解決に取り組むことで、SDGsの達成に貢献できるのです。
【発表1:児童労働のないコットンを目指して 認定NPO法人ACE インド・プロジェクト・マネージャー 田柳優子氏】
SDGsの目標8の中に指標として「2025年までにあらゆる形態の児童労働をなくす」ことが掲げられています。
ACEは1997年に5人の学生が立ち上げた、児童労働のない未来を目指す国際協力NGOです。これまでに13,000人の子どもの教育を支援し、インドとガーナで2,285人の子どもたちが児童労働から抜け出すことを実現しました。
ILO(国際労働機関)によると、世界の子ども(5~17歳)の10人に1人、1億5200万人もの子どもたちが、義務教育を妨げられる労働や危険で有害な労働に就いています。うち71%が製品の原材料を生産する農林水産業で働いており、殺虫剤などの化学農薬にさらされたり重い荷物の運搬や危険な道具の使用によって健康を脅かされたりしています。児童労働の要因の1つには、貧困のために子どもを働かせる家庭の供給事情と、低賃金の子どもを使うことでコスト削減を図るビジネスの需要事情の関係があります。
ACEのインドの活動地域で最も問題となっているのは、遺伝子組換コットンの交配作業に子どもが使われていることです。コットン栽培には大量の農薬が使用されており、さまざまな健康被害が報告されています。農薬の使用はまた、土壌の劣化や地下水の汚染、生態系の破壊をもたらしたり、農薬を購入するために農家が借金を抱えるなどの問題を引き起こしていたりします。
そこでACEは2010年から、インドのNGOと協働で「ピース・インド・プロジェクト」に取り組んでいます。3つの村で子どもの就学支援や義務教育年齢以後の女の子の職業訓練、おとなへの収入向上支援を行い、活動終了後は、住民自身が「児童労働のない村」を継続できるよう意識啓発を行っています。
一例として、ある母子家庭で子どもが働くのが当たり前と考えていたお母さんが教育の大切さに気づき、お金の使い道を見直して子どもを学校に行かせるようになりました。
これまで3つの村で人口9,600人のうち累計803 人の子どもが児童労働から解放されて就学し、223 人の日本の高校生の年齢の女の子が仕立て屋としてビジネスを運営しています。また206人の貧困家庭の親が新しい収入源を得て子どもの教育費を捻出するようになりました。
児童労働をなくすためには、供給側である現地での活動だけでなく需要側であるビジネスの側が変わる必要があります。フェアトレードなど人権に配慮したビジネスの実践例として、ACEが活動して児童労働がなくなった村では、2014年から興和株式会社と村のコットン農家が「ピース・インディア・コットン(Peace India Cotton=P.I.C)」プロジェクトを開始し、オーガニックコットンを栽培し製品化を目指しています。
【発表2:サステナブルなコットンとは? テキスタイル・エクスチェンジ(TE)理事 稲垣貢哉氏】
綿花は世界64か国2,967万ヘクタールの土地で栽培されており、2016-17年には約2,310万トンのコットンが生産されました。TEは「プリファード(好ましい)コットン」の生産を推進しています。
プリファードコットンとは、フェアトレード、オーガニック、コットンメイドインアフリカ(Cotton made in Africa=CmiA)、BCI(Better Cotton Initiative:農薬の適正使用や効率的な水の使用など、より持続可能なコットン生産を目指す取り組み)など、土地や農業従事者にとってより好ましい綿の総称です。
オーガニックコットンの生産量は、世界全体のコットン生産量の0.5%しかありません。なぜかといえば価格が高く欲しがる人が少ないからです。TEでは、CmiAをオーガニックやフェアトレードに移行するように呼び掛けています。
プリファードコットンの生産量は年々増加しており、2012-13年の141万トンから、2016-17年は376万トン、コットンの全生産量の18%を占めるまでになっています。その中でオーガニックコットンは11万8千トン、フェアトレードコットンは2万1千トン(注:フェアトレード&オーガニックは1万3千トンで重複)に過ぎず、大きく伸びているのはBCIで、コットンの全生産量の15%を占めています。BCIは有害な農薬や化学肥料の使用は減らすものの遺伝子組み換え種を認めるなど基準が緩く、オーガニックに移行していく過程といえます。最終的にはオーガニックコットンに替わり、遺伝子組み換えコットンをなくすことは可能だと個人的に思っています。また、BCIは第三者認証の制度も発展途上のため製品にラベルがつくことはありません。
TEが掲げた目標「2025年までに100%持続可能な綿調達」を目指すことを宣言した企業・ブランドは39社に上っています。
オーガニック、フェアトレード、BCIはいずれも、持続可能な綿花生産によってSDGsにある環境保全や農家の収入向上などの持続可能な開発目標の達成を目指しています。どの方法が良い悪いということでなく、従来農法のコットンから少しでもオーガニック、フェアトレードの方向に変わっていくといいと考えています。
【講演2:つくり手から買い手までをつなくビジネスの挑戦 ピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)代表取締役社長 ミニー・ジェームズ氏】
ピープルツリー創業のきっかけは、1989年に来日して過剰消費に驚き、リサイクルなどの情報を集めて発信するようになったことです。自分が使いたいと思う商品を仕入れて周りの人にも広めていきました。
2013年にバングラデシュで、1,000人以上の犠牲者が出た縫製工場の崩落事故が起きました。その翌年「ファッションレボリューション」という、自分が着る服の背景を知り服のつくり手の人権を守ろうと呼び掛けるキャンペーンが始まりました。また、この事件をきっかけにアメリカのドキュメンタリー監督による映画『ザ・トゥルー・コスト』がつくられ、ラレーさんやピープルツリーの活動も映画の中で紹介されました。
フェアトレードは豊かな先進国が貧しい途上国を支援するものですが、支援よりまず「泥棒をやめる」、つまり不平等な搾取をやめることが必要です。昔は途上国と呼ばれる国々はとても豊かでした。ピープルツリーのものづくりには18か国、約130の団体が生産に携わっていますが、それぞれの地域に伝統的な技術や農業の知識があります。ピープルツリーは手織りや手刺繍、ハンドプリントなどの伝統的な手法を商品に活かしています。手仕事であれば、大きな資本を持たない人も参加できます。ネパールの生産者団体では、女性が在宅で手編みの仕事をしており、子どもの面倒を見ながらでも収入を得られます。子どもの大学費用まで稼いだ人もいます。
ピープルツリーは、環境を守るために衣料品や食品の原料にできる限りオーガニックな素材を使っています。1995年にオーガニックコットンを使ったサステナブルなサプライチェーンづくりを目指し始め、ジンバブエ、インド、バングラデシュでリサーチを行いました。1997年にインドの有機農家組合とパートナーシップを結んでその翌年、初めてのオーガニックコットン製品を発売しました。2006年にオーガニックテキスタイル世界基準「GOTS」が制定されると同時に認証取得を申請し、2007年にGOTS認証を取得しました。これは、世界で初めての、原綿栽培から最終加工まですべて途上国で行われたオーガニックコットン製品のGOTS認証取得でした。ピープルツリーは生産者パートナーが認証を取得できるよう、さまざまなサポートを行っています。現在、ピープルツリーのコットン衣料品の80%以上が、製品における含有量が95%以上のオーガニックコットン製品です。
ピープルツリーはお客さまに商品を使う嬉しさを感じていただくために、誰がどうつくったかを伝えています。多くのお客さまが買いたい思う商品をつくって生産者により多くの仕事を提供するため、商品開発に力を入れ外部のデザイナーとのコラボレーションも行っています。
フェアトレードとオーガニック農法は、つくり手の貧困や不平等をなくし、環境を守ることでSDGsの達成に貢献します。つまりSDGsの17の目標は、ピープルツリーが28年間ずっと目指して実行してきたことそのものです。
「お買いものは投票行為」とよく言われます。人を搾取するサプライチェーンにお金を使わず、フェアトレードやオーガニックにお金を使いましょう。
=第二部:パネルトーク「オーガニックコットンとフェアトレードの広め方を考えよう」=
<モデレーター>
グローバル・ヴィレッジ 代表 胤森なお子
<パネリスト>
・テキスタイル・エクスチェンジ 代表 ラレー・ペッパー氏
・ピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)代表取締役社長 ミニー・ジェームズ氏
・明治大学農学部専任講師 岡通太郎氏&岡ゼミ学生
・テキスタイル・エクスチェンジ 理事 稲垣貢哉氏
・認定NPO法人ACE インド・プロジェクト・マネージャー 田柳優子氏
胤森:このパネルトークでは、休憩時間中に参加者のみなさんに書いていただいた質問に答えながら、第一部に登壇したゲストと一緒にオーガニックコットンとフェアトレードを普及させるためのアイデアを考えていきます。トークのゲストとしてもう1名、明治大学農学部専任講師の岡通太郎氏に登壇いただきます。岡ゼミでは、脳科学を使って消費者の「情」に訴えかけることを研究されており、このたび興味深い実験をされたとのことなので、その発表をお願いします。
【発表1:明治大学農学部 岡通太郎氏&岡ゼミ学生】
これまでのオーガニックコットンの広め方は、興味のある人に働きかけることが中心でしたが、興味のない潜在的な顧客にアプローチすることにチャレンジすることにしました。
消費者の情を揺さぶるような情報が脳内に「オキシトシン」という共感ホルモンを分泌させるからです。オキシトシンが出ると、人を助けたくなり、オーガニックコットンを買いたくなるような衝動を与えるのです。
まずフィールド調査として、インドのオーガニックコットンの農園を訪れました。学園祭の発表で使用する動画やパンフレットの素材を集めるためと、インターネットで取れるような情報ではなく自分が見聞きすることでしか感じることのできない情報を得るためです。
実際に行ってみて、作業量が多く大変だろうと想像していましたが、農家の方々は作業が楽しく何よりも収入が増えたのが嬉しいと笑顔でおっしゃっており驚きました。
私たちは「感情を揺さぶる情報によって消費者は生産者を応援するためにオーガニックコットンを買う」という仮説を検証するために、学園祭で二つの販売実験を行いました。
一つ目の実験では、感情を揺さぶる情報(子どもの笑顔等)と、揺さぶらない情報を与えてオキシトシン分泌の増加量を調べました。結果はどちらも約7割の人でオキシトシンが増加し、二つのグループの間に大きな差はありませんでした。
二つ目の実験では、購入者のオキシトシン量を比較しました。すると、オキシトシンの量が多いと購入の確率が1.728倍高まることが分かりました。
オキシトシンを増加させるにはどうしたらよいのか?が現在の課題で、引き続きゼミ生が研究を続けます。また、これまで大学祭でのみオーガニックコットン商品を販売していましたが、今後はキャンパス内でグッズ販売などを行っている「明大マート」で通常販売する予定です。共感を利用したマーケティング手法によって、どうやって情報を伝えればオーガニックコットン商品の購入につなげられるか、商品のデザインや販売、提案を通じて研究します。小さなことですが、SDGsの達成にむけて努力します。
胤森:現地を見たことが、みなさんの行動のパワーになったことが伺えました。みなさんが訪れたのはACEと興和株式会社が取り組んでいるP.I.Cプロジェクトの現場とのことです。このプロジェクトについて、TE理事として先ほどお話された興和株式会社の稲垣さんにもう少し説明をお願いします。
【発表2:テキスタイル・エクスチェンジ 理事 稲垣貢哉氏】
ACEが活動したインド南部のテランガナ州ガドワル地区では、児童労働はなくなったものの畑には農薬がたくさん残っており健康被害などの問題がありました。その解決のためにオーガニックコットンに移行するプロジェクトの実施を、ACEからの依頼で始めました。
開始当初、オーガニックコットンを栽培すれば全量買い取ると呼び掛けても5名ほどしか参加しませんでした。しかしACEの活動があったおかげで少しずつ話を聞いてくれるようになり、5年経って84軒の農家がオーガニックに取り組むようになりました。
オーガニック認証を取ることは手段であって、活動の目的は畑から農薬をなくすことです。遺伝子組み換えでない種子は入手困難なため、つてを頼って農民に提供しました。オーガニック認証を受けるためには3年間農薬や化学肥料、遺伝子組換種子を使わず栽培する必要がありますが、ある年の土壌検査で遺伝子組換種子が見つかり認証が取れませんでした。しかし重要なのは認証の有無ではなくオーガニックに移行していくことですから、私たちはそのコットンを買い取りました。農家の人たちが、一番嬉しいことは家族のためにオーガニックコットンをつくっていると言ってくれることが自分の実績だと思っています。
P.I.Cプロジェクトには旭化成も参加して、コットン繊維として使えない部分を加工してキュプラをつくっています。
日本では東日本大震災の後、津波により塩害で稲が育たなくなった土地でコットンを育てる「東北コットン」プロジェクトも始めました。昨年は収穫量が1ヘクタール当たり1トン近くになり、インドよりも高くなりました。日本で実績を積んだやり方をインドに伝えて活かしたいと考えています。
胤森:企業が手を組むことでオーガニックコットンの生産量をぐっと増やすことできるので、企業とNGOの連携はオーガニックやフェアトレードを広げていく鍵になると思います。
ここからは会場からの質問に答えていきます。「ACEのプロジェクトでは、児童労働のある家庭にアプローチして何パーセントくらいに効果が出るのでしょうか?」
田柳:先ほど稲垣さんからご紹介があったP.I.Cプロジェクトを行っている村では100%の子どもが学校に行くようになりました。児童労働をなくす「ピース・インド・プロジェクト」はACEが現地NGOと協力して進めており、村で住民ボランティア・グループを結成して将来的には住民たちが現地スタッフの仕事を担えるようにしています。子どもが働くことが当たり前と考えていた住民たちの中で意識が変わる人が増え、子どもを学校に行かせる親が増えると、住民同士で注意し合うようになります。最初は、子どもを学校に行かせていれば小規模融資のプログラムに申し込めるというインセンティブに惹かれて学校に通わせるようになる人もいますが、最終的には子どもの変化を見て教育の大切さに気づいていきます。
胤森:「貧しい家庭では子どもが働いたほうが家計の助けになるのでは?子どもが働かなくなっても教育資金を準備できるのでしょうか?」
田柳:村には公立学校があり、費用はかかりません。目先の利益を得るために子どもを働かせている場合も多く、意識を変えれば現状の支出の中で教育に充てられるものに気付くことができます。短期的には入ってくる賃金が減っても、将来的には子どもが教育を受けた方が収入が上がるかもしれないということに気づいていきます。卒業後に農家で働くことになるとしても、読み書きができることで効率的な農業を考えられたり、種子の購入の際に仲介人と交渉ができるなどで、収入が増えるのです。また、親だけでなく子ども自身も、学校で学ぶことの意義に気づくことが大事です。
胤森:「プロジェクト終了後、活動を村人に引き渡してどのように継続させていくのですか?」
田柳:住民ボランティアグループが、児童労働がないことを継続的にチェックしています。ACEのスタッフも、別の村を訪れる際に様子を見に行ったり、サポートが必要な問題があればすぐ電話で報告をもらいフォローするようにしています。
胤森:現地の人たちとコミュニケーションをとることはフェアトレードでも大切な要素ですが、「ピープルツリーでは生産者に対してどのような働きかけをしていますか?」
ミニー:国により生活習慣の違いで求めることが異なります。たとえばアクセサリーの生産者の国では、金具がとれたら店で直してもらうのが当たり前なので、それなりのつくりで安い方がいいと考えます。でも日本では、商品の値段が高くても壊れにくく完璧なものを期待しますから、最初からそういう違いを伝えればきちんとつくってもらえます。キャパシティビルディングとはそういった橋渡しの役割なのです。また、手織り生産者の中で、ある女性グループの収入が低かったので、スキルの高い別のグループで研修をしてもらいました。技術だけでなくチームの組み方など生産性を上げるコツを習得してもらった結果、ピープルツリーの買い取り価格は変わらないのに生産者の手取りが倍になりました。
胤森:「ピープルツリー創業時の28年前と比較して、フェアトレードの市場にどんな変化がみられますか?」
ミニー:当時はフェアトレードが日本のどこにも知られていませんでしたが、今はさまざまな活動家や事業家がフェアトレードに取り組んでいらっしゃいます。一握りの変わった人がやっていた活動から、おしゃれに見せるフェアトレードブランドが出るまでになりました。
胤森:しかし、「その割にはフェアトレード商品が普及していない」という意見がありますが?
ミニー:どうしたら普及できるかということをいつも考えています。活動を始めたとき、フェアトレードが当たり前となり、最終的には自分たちの活動が必要なくなる日が来るといいと思っていました。ワンピース1枚がサンドイッチ1つより安いという社会ではなく、モノの価値を知ってそれを着る充実感を感じるという社会にしたいと思います。モノの値段の他にも、過剰消費、大量廃棄の問題もあります。どう解決するかを皆さんと考えていきたいです。
胤森:廃棄物についての質問も受けています。「大企業がオーガニック、フェアトレードのものを大量につくったら大量廃棄の問題が起きるのではないでしょうか?」
稲垣:オーダーメイドから既製服、ファストファッションに変わってきた流れからすると確かにその可能性はないとは言えません。ただ、つくりすぎた服をリサイクルやアップサイクルする取り組みは増えてきています。まだ取り組みは十分ではないですが、それをリサイクルの基準で補っていく取り組みもあります。また、大企業を刺激するような小さな新たな取り組みも始まっています。例えば、消費者と一緒にSNSを使って商品を開発、3Dでパターンをつくることでサンプルを減らす、などです。今までと同じやり方では続かないと思っています。
胤森:普及していないという点ではオーガニックも同様です。「オーガニックコットンのシェアが0.5%ということでしたが、この数字は10年後どの程度増えていると思いますか?」
ラレー:オーガニックもフェアトレードも、商品の消費、認知度とも上がっていくと思います。そのために投資をすることで変化が生まれます。今のビジネスモデル、価格構造がコットン農家の深刻な貧困を生み出してきました。ピープルツリーが生産者のキャパシティビルディングに投資をしてきたように、農家が持続可能な生産をするための投資が必要です。投資で変革を起こすことは可能です。
10年後の数値は、消費者がもっと知り、買うものの価値を理解して買うようになり、問題の一部となる代わりに解決を担うことで上がっていくと信じています。
胤森:何%になるかは私たち次第ということですね。投資が必要というご発言がありましたが、多くの方から、「オーガニックやフェアトレードのものは値段が高く消費者がなかなか買えない」という意見が寄せられています。値段についてどうお考えですか?
ミニー:フェアトレードでないものが安すぎるのが現状だと思います。日本では、15年ほどの間に消費者が買っている衣料品の数は15%増ですが、供給数はそれをはるかに上回って供給過剰です。消費者の手に渡らずに廃棄されているものが増えています。いつでも欲しいときに買えるようにするビジネスモデルがつくりすぎを生み、安いからたくさん買い、着なくなって捨てています。どこで誰がつくったかわからない、思い入れのないものであることもその一因だと思います。思いがあるものを使うことによって得る充実感に価値を置くようになれば、枚数を少なくしていいものを着るようになると期待したいです。
胤森:つまり今の値段は、フェアなつくり方をせず農薬や化学肥料を使って大量生産することで実現されたもので、その値段の方が問題だということですね。
ミニー:そうです。従来型の経済学では、環境汚染や人の搾取は商品の対価に入らないのです。そのコストを負担しているのは、生産地の住民やつくっている労働者など消費者以外の人たちで、そのために商品が安くなってしまっています。
岡:従来型の経済学で言う「消費者の満足」について、安いものを買うことが満足なのか?という疑問が出始めています。これまでは同じ金額で10枚買えるのと7枚買えるのでは10枚のほうがよいとされていました。しかし、数値化できないこだわりや充実感などを感じて7枚買った場合、消費者は損をしているとは言えません。「幸福の経済学」では、買う時の満足度と買った後の満足度を比べ、安いものを買った人は必ずしも幸せになっていないことを示しています。こだわりがある7枚を買った人の方が得をしているという研究結果が、最近いろいろ出ています。安いものを買うことが本当に自分の満足につながるのか消費者は分からなくなっており、それをクリアにしていくのが本当の経済学の役割だと思います。
ラレー:ちょうど今グローバルプラザの階下で「ファッションと気候変動」の展示が行われており、Tシャツを長く着ることによってどれだけ気候変動に好影響を与えることができるのかということが分かります。ぜひ見に行ってください。(8月31日まで展示)
胤森:価格に関連して、「認証のコストをどう考えますか?」
ミニー:認証コストが高いので大きな組織でないと認証を受けられないという悩みがあります。フェアトレード団体は小規模生産者が多いので、大手の監査会社から査察員を呼んで監査を受けるコストは負担できません。
WFTO(世界フェアトレード連盟)では、加盟団体同士でお互いにヒアリングする、グループをつくって一緒に監査を受けるなどの工夫によって監査コストを削減し、手軽にできて信頼できる認証制度をつくっています。
稲垣:TEはいろいろな認証基準を持っており、製品が正当な工程でつくられているかを外部組織がチェックしています。認証検査に費用はかかります。大きな工場で全工程が行われていれば安く済みますが、日本のように工程が分かれていると、工場ごとの検査に費用がかかってしまいます。そこでTEでは、セントラルデータベース・システムをつくり、GOTSなど他の認証基準で受けた検査結果をデータベース化して書類を減らす、グループで認証を受けられるようにするなど、費用の低減を進めています。興和は世界で最も認証費用を払っている会社のひとつであり、コストが高いことをよく知っていますから、TEに相談しながらコストを下げる工夫をしています。
胤森:「ピープルツリーが活動を続けていく上で困難だったことは何ですか?」
ミニー:始めた頃は、誰も知らなかったことをどうやって広めていくか分かりませんでした。いろいろな人に会うことで活動を続けることができましたが、語り尽くせないほどの困難がありました。
胤森:他にも質問はたくさんいただきましたが、すべてにお答えできません。どうやって広めるかのアイディアをいくつかいただいた中で多かったのは、SNSを使って情報を広めるというものでした。ACEはSNSをどのように活用していますか?
田柳:「ストップ!児童労働キャンペーン」で、レッドカードを挙げた写真を撮ってハッシュタグ「#STOPCL」をつけてSNSにアップすることを呼び掛けています。また、インスタグラムでは、企業の協力で児童労働があるコットンなどの商品の動画を作り、苦しむ子どもの手で作られた製品が私たちの手元にくるキャッチーな映像で広めることを行いました。SNSは特に若い人への波及力があると感じています。
胤森:「若い人にできること、私にできることは?」という質問を多くいただいているので、最後にパネリスト全員からメッセージをお願いします。
稲垣:洋服を買うときに、この服がどこからどうやってつくられているのか考えてください。インターネットの情報を信じすぎずに、自分の頭で考えてみましょう。いろいろ面白い活動があるので、私に聞いてもらえれば紹介できます。参加してください。
ラレー:みなさんは大きな力を持っている世代です。みなさんの選択で変化を生むことができます。賢く選んでください。情報を持って意思決定し、消費する人になってください。児童労働をなくすにも農薬の害をなくすにも、みなさんは大きな力を持っているので、それを賢く使ってください。
ミニー:どうせ買うならフェアトレードかオーガニック。買いたいと思ったとき、自分の生活の何が充実するのか、自分が本当は何を求めているのかを考えてください。買っても満足しないでもう一枚買う、ということから脱皮しましょう。
田柳:昨年ミラノのTE国際会議で、ある日本企業の参加者から「児童労働はもう古い」と言われました。持続可能な繊維について勉強している方が、児童労働はもう解決した問題ととらえていたのです。海に流れ込んでいるマイクロプラスチックなどさまざまな問題に対応しなければならないのは確かですが、今話題になっている問題だけに対応する傾向があります。世界を変えるには企業を変える必要があり、企業を変えるには消費者の声が必要です。企業に問題を伝えてくのが消費者としてできることだと思います。問題があることをSNSにアップするだけでなく、その情報を誰にどう届けるかも考えることでより波及力を持つ行動になります。ぜひ、いろいろなアイディアをお寄せください。
岡:まず自分の幸せについてもう少し考えましょう。安いものをたくさん買うのが幸せか?自分自身が幸せになるためにどういったものを買うのか?高いものを買うことで子どもたちに物語を伝えられるなど、有形無形の価値があることに気付くことです。
これまでのフェアトレードやオーガニックの訴求方法は、環境や現地の人のためなど自分以外の誰かのために高いものを買うというアプローチでした。しかしひるがえって、買うことは私のため、フェアトレードやオーガニックが自分の幸せになるということを考えていきましょう。
胤森:フェアトレードとオーガニックでまず自分が幸せになり、それを他の人にも伝えていく、ということですね。みなさんがここで得たことを周りの人に広げていただければと思います。
<登壇者プロフィール>
ラレー・ペッパー (La Rhea Pepper) :テキスタイル・エクスチェンジ 代表
テキサス州ラボック出身。コットン農家の5代目。1990年代初頭にオーガニックコットンの栽培を開始し、オーガニックコットン・ムーブメントにおける重要人物となる。 テキサス・オーガニック・コットン・マーケティング協同組合を共同設立し、現在までに40の生産者メンバーが年間10,000〜19,000エーカーのオーガニックコットンを育てるまでに成長している。
田柳優子(たやなぎ・ゆうこ):認定NPO法人ACE インド・プロジェクト・マネージャー
大学在学中にストリートチルドレンを保護するインドの現地NGOでインターンシップを経験。帰国後にACEのスタディツアーで再びインドを訪れ、児童労働の問題に関わるようになる。卒業後、企業での勤務を経て、2015年より現職。インドのコットン生産地の児童労働撤廃・予防プロジェクトの管理の他、日本で企業との連携によるフェアトレードやオーガニックなどのエシカルな製品の推進、消費者や学校向けに講演活動等を行う。
稲垣貢哉(いながき・みつや):テキスタイル・エクスチェンジ 理事
1987年興和株式会社入社。2003年11月オーガニックコットン製造小売事業“Tenerita”をスタート。2007年よりオーガニック・エクスチェンジ(現テキスタイル・エクスチェンジ)理事。2014年よりNPO法人ACEと協業で「Peace India Cotton」プロジェクトを実施し、オーガニックコットンへの転換事業で農業チャレンジ中。
ミニー・ジェームズ(James Minney):ピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)代表取締役社長
英国オックスフォード大学ベリオルカレッジ卒業後、ロンドンおよび東京の日系/外資系の大手金融機関に勤務。この間、サフィア・ミニーをサポートし、1991年NGO「グローバル・ヴィレッジ」を創立。1995年フェアトレードカンパニー株式会社(FTCo)を、2001年ロンドンに「ピープルツリーリミテッド(PTLtd)」を設立。2007年に金融機関を退職し、FTCo及びPTLtdの取締役に就任。2008年ロンドンにFTCoとPTLtdの持株会社「ピープルツリーフェアトレードグループリミテッド(PTFTG)」を設立、同社の取締役に就任。2015年FTCoの代表取締役に就任し、現在に至る。
岡通太郎(おか・みちたろう):明治大学農学部食料環境政策学科講師(共生社会論研究室)
1971年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科卒業。博士(地域研究)。京都大学東南アジア研究所講師、ロンドン政治経済大学客員研究員を歴任。ゲーム理論、幸福の経済学、行動経済学などを用いた持続可能な市場についての実証研究。
胤森なお子(たねもり・なおこ):グローバル・ヴィレッジ 代表
1999年ボランティア参加を経てピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)のスタッフとなり編集や広報を担当。フェアトレードのスポークス・パーソンとしてセミナー講師などを務める。2006年~2016年まで同社常務取締役。現在、同社の母体NGOグローバル・ヴィレッジにてフェアトレードの啓発・推進活動を担当。一般社団法人 日本フェアトレード・フォーラム 代表理事。
この記事は、ピープルツリーの母体NGO「グローバル・ヴィレッジ」が作成しました。
グローバル・ヴィレッジは、イベントやキャンペーンを通じて貿易や消費社会の問題点を伝え、途上国の立場の弱い人々の自立を支援 するフェアトレードの普及・促進を行うと共に、生産国の教育・環境プロジェクトの支援を通じて生産者をサポートしています。
こういった活動を安定して継続的に行うため、会員となって活動を支えてくださる方を募集しています。詳しくは、こちら。
レポート前編はこちら
=第一部:講演・発表=
【講演1:コットン畑で何が起こっているの?~農家の経験から~ テキスタイル・エクスチェンジ(TE)代表 ラレー・ペッパー氏】
私はアメリカ・テキサス州のコットン農家の5代目で、1990年代初頭に祖父がオーガニックコットンの栽培を開始しました。祖父から受け継いだ遺産を子や孫に伝えていきたいと考えてオーガニック農法を続けています。
2002年にTEの前身組織を共同設立しました。TEは世界のテキスタイル産業が生産や流通の過程で環境への害が少ない繊維を増やせるよう、企業にヒントを与え実行を働きかけています。オーガニックや環境再生型の繊維によって、環境に害を与えないだけでなく積極的に環境を癒すという継続的な流れをつくりたいと考えています。TEの加盟企業は320社以上にのぼり、うち17か国の111社が「プリファードファイバー(環境や社会にとってより好ましい繊維)」の使用を増やすよう目標を立てて実践に取り組んでいます。
みなさん一人ひとりにできることがあります。自分が今日どんな服を着るかという選択が、他の人の暮らしに影響を与えることを知ってください。
オーガニックコットンは、世界23か国、110の農家グループによって栽培されています。従来の農法とオーガニック農法の違いは、「従来の農法は『死』、オーガニック農法は『生』」だと思います。草や虫や微生物を殺す従来農法に対し、有害な物質の使用や排出が少ないオーガニック農法では、農地や動植物、その土地で働く農民、そこで遊ぶ子どもたちにとっても安全なのです。
TEの「オーガニックコットン・マーケット・レポート」2018年版によると、世界のオーガニックコットンの生産量は前年より10%増加して11万7千トンあまりになり、47万ヘクタールの農地がオーガニック認証済みで、21万ヘクタールがオーガニックに移行中です。
オーガニックコットンは、「ライフサイクルアセスメント(環境影響評価)」においても優れています。従来農法のコットンに比べてCO2の排出や水の使用が少なく環境への負荷が低くて済みます。またサステナビリティ(持続可能性)の面からもオーガニックコットンが有益であることが示されています。オーガニックコットン農家は同時に作物を栽培して販売したり、フェアトレードなどの労働環境の基準を持っています。72%の農家組合がオーガニックコットンの栽培によりコミュニティが恩恵を受けたと報告しています。
オーガニックコットンの普及は、生産者、小売業者、消費者が一体となって問題の解決に取り組むことで、SDGsの達成に貢献できるのです。
【発表1:児童労働のないコットンを目指して 認定NPO法人ACE インド・プロジェクト・マネージャー 田柳優子氏】
SDGsの目標8の中に指標として「2025年までにあらゆる形態の児童労働をなくす」ことが掲げられています。
ACEは1997年に5人の学生が立ち上げた、児童労働のない未来を目指す国際協力NGOです。これまでに13,000人の子どもの教育を支援し、インドとガーナで2,285人の子どもたちが児童労働から抜け出すことを実現しました。
ILO(国際労働機関)によると、世界の子ども(5~17歳)の10人に1人、1億5200万人もの子どもたちが、義務教育を妨げられる労働や危険で有害な労働に就いています。うち71%が製品の原材料を生産する農林水産業で働いており、殺虫剤などの化学農薬にさらされたり重い荷物の運搬や危険な道具の使用によって健康を脅かされたりしています。児童労働の要因の1つには、貧困のために子どもを働かせる家庭の供給事情と、低賃金の子どもを使うことでコスト削減を図るビジネスの需要事情の関係があります。
ACEのインドの活動地域で最も問題となっているのは、遺伝子組換コットンの交配作業に子どもが使われていることです。コットン栽培には大量の農薬が使用されており、さまざまな健康被害が報告されています。農薬の使用はまた、土壌の劣化や地下水の汚染、生態系の破壊をもたらしたり、農薬を購入するために農家が借金を抱えるなどの問題を引き起こしていたりします。
そこでACEは2010年から、インドのNGOと協働で「ピース・インド・プロジェクト」に取り組んでいます。3つの村で子どもの就学支援や義務教育年齢以後の女の子の職業訓練、おとなへの収入向上支援を行い、活動終了後は、住民自身が「児童労働のない村」を継続できるよう意識啓発を行っています。
一例として、ある母子家庭で子どもが働くのが当たり前と考えていたお母さんが教育の大切さに気づき、お金の使い道を見直して子どもを学校に行かせるようになりました。
これまで3つの村で人口9,600人のうち累計803 人の子どもが児童労働から解放されて就学し、223 人の日本の高校生の年齢の女の子が仕立て屋としてビジネスを運営しています。また206人の貧困家庭の親が新しい収入源を得て子どもの教育費を捻出するようになりました。
児童労働をなくすためには、供給側である現地での活動だけでなく需要側であるビジネスの側が変わる必要があります。フェアトレードなど人権に配慮したビジネスの実践例として、ACEが活動して児童労働がなくなった村では、2014年から興和株式会社と村のコットン農家が「ピース・インディア・コットン(Peace India Cotton=P.I.C)」プロジェクトを開始し、オーガニックコットンを栽培し製品化を目指しています。
【発表2:サステナブルなコットンとは? テキスタイル・エクスチェンジ(TE)理事 稲垣貢哉氏】
綿花は世界64か国2,967万ヘクタールの土地で栽培されており、2016-17年には約2,310万トンのコットンが生産されました。TEは「プリファード(好ましい)コットン」の生産を推進しています。
プリファードコットンとは、フェアトレード、オーガニック、コットンメイドインアフリカ(Cotton made in Africa=CmiA)、BCI(Better Cotton Initiative:農薬の適正使用や効率的な水の使用など、より持続可能なコットン生産を目指す取り組み)など、土地や農業従事者にとってより好ましい綿の総称です。
オーガニックコットンの生産量は、世界全体のコットン生産量の0.5%しかありません。なぜかといえば価格が高く欲しがる人が少ないからです。TEでは、CmiAをオーガニックやフェアトレードに移行するように呼び掛けています。
プリファードコットンの生産量は年々増加しており、2012-13年の141万トンから、2016-17年は376万トン、コットンの全生産量の18%を占めるまでになっています。その中でオーガニックコットンは11万8千トン、フェアトレードコットンは2万1千トン(注:フェアトレード&オーガニックは1万3千トンで重複)に過ぎず、大きく伸びているのはBCIで、コットンの全生産量の15%を占めています。BCIは有害な農薬や化学肥料の使用は減らすものの遺伝子組み換え種を認めるなど基準が緩く、オーガニックに移行していく過程といえます。最終的にはオーガニックコットンに替わり、遺伝子組み換えコットンをなくすことは可能だと個人的に思っています。また、BCIは第三者認証の制度も発展途上のため製品にラベルがつくことはありません。
TEが掲げた目標「2025年までに100%持続可能な綿調達」を目指すことを宣言した企業・ブランドは39社に上っています。
オーガニック、フェアトレード、BCIはいずれも、持続可能な綿花生産によってSDGsにある環境保全や農家の収入向上などの持続可能な開発目標の達成を目指しています。どの方法が良い悪いということでなく、従来農法のコットンから少しでもオーガニック、フェアトレードの方向に変わっていくといいと考えています。
【講演2:つくり手から買い手までをつなくビジネスの挑戦 ピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)代表取締役社長 ミニー・ジェームズ氏】
ピープルツリー創業のきっかけは、1989年に来日して過剰消費に驚き、リサイクルなどの情報を集めて発信するようになったことです。自分が使いたいと思う商品を仕入れて周りの人にも広めていきました。
2013年にバングラデシュで、1,000人以上の犠牲者が出た縫製工場の崩落事故が起きました。その翌年「ファッションレボリューション」という、自分が着る服の背景を知り服のつくり手の人権を守ろうと呼び掛けるキャンペーンが始まりました。また、この事件をきっかけにアメリカのドキュメンタリー監督による映画『ザ・トゥルー・コスト』がつくられ、ラレーさんやピープルツリーの活動も映画の中で紹介されました。
フェアトレードは豊かな先進国が貧しい途上国を支援するものですが、支援よりまず「泥棒をやめる」、つまり不平等な搾取をやめることが必要です。昔は途上国と呼ばれる国々はとても豊かでした。ピープルツリーのものづくりには18か国、約130の団体が生産に携わっていますが、それぞれの地域に伝統的な技術や農業の知識があります。ピープルツリーは手織りや手刺繍、ハンドプリントなどの伝統的な手法を商品に活かしています。手仕事であれば、大きな資本を持たない人も参加できます。ネパールの生産者団体では、女性が在宅で手編みの仕事をしており、子どもの面倒を見ながらでも収入を得られます。子どもの大学費用まで稼いだ人もいます。
ピープルツリーは、環境を守るために衣料品や食品の原料にできる限りオーガニックな素材を使っています。1995年にオーガニックコットンを使ったサステナブルなサプライチェーンづくりを目指し始め、ジンバブエ、インド、バングラデシュでリサーチを行いました。1997年にインドの有機農家組合とパートナーシップを結んでその翌年、初めてのオーガニックコットン製品を発売しました。2006年にオーガニックテキスタイル世界基準「GOTS」が制定されると同時に認証取得を申請し、2007年にGOTS認証を取得しました。これは、世界で初めての、原綿栽培から最終加工まですべて途上国で行われたオーガニックコットン製品のGOTS認証取得でした。ピープルツリーは生産者パートナーが認証を取得できるよう、さまざまなサポートを行っています。現在、ピープルツリーのコットン衣料品の80%以上が、製品における含有量が95%以上のオーガニックコットン製品です。
ピープルツリーはお客さまに商品を使う嬉しさを感じていただくために、誰がどうつくったかを伝えています。多くのお客さまが買いたい思う商品をつくって生産者により多くの仕事を提供するため、商品開発に力を入れ外部のデザイナーとのコラボレーションも行っています。
フェアトレードとオーガニック農法は、つくり手の貧困や不平等をなくし、環境を守ることでSDGsの達成に貢献します。つまりSDGsの17の目標は、ピープルツリーが28年間ずっと目指して実行してきたことそのものです。
「お買いものは投票行為」とよく言われます。人を搾取するサプライチェーンにお金を使わず、フェアトレードやオーガニックにお金を使いましょう。
=第二部:パネルトーク「オーガニックコットンとフェアトレードの広め方を考えよう」=
<モデレーター>
グローバル・ヴィレッジ 代表 胤森なお子
<パネリスト>
・テキスタイル・エクスチェンジ 代表 ラレー・ペッパー氏
・ピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)代表取締役社長 ミニー・ジェームズ氏
・明治大学農学部専任講師 岡通太郎氏&岡ゼミ学生
・テキスタイル・エクスチェンジ 理事 稲垣貢哉氏
・認定NPO法人ACE インド・プロジェクト・マネージャー 田柳優子氏
胤森:このパネルトークでは、休憩時間中に参加者のみなさんに書いていただいた質問に答えながら、第一部に登壇したゲストと一緒にオーガニックコットンとフェアトレードを普及させるためのアイデアを考えていきます。トークのゲストとしてもう1名、明治大学農学部専任講師の岡通太郎氏に登壇いただきます。岡ゼミでは、脳科学を使って消費者の「情」に訴えかけることを研究されており、このたび興味深い実験をされたとのことなので、その発表をお願いします。
【発表1:明治大学農学部 岡通太郎氏&岡ゼミ学生】
これまでのオーガニックコットンの広め方は、興味のある人に働きかけることが中心でしたが、興味のない潜在的な顧客にアプローチすることにチャレンジすることにしました。
消費者の情を揺さぶるような情報が脳内に「オキシトシン」という共感ホルモンを分泌させるからです。オキシトシンが出ると、人を助けたくなり、オーガニックコットンを買いたくなるような衝動を与えるのです。
まずフィールド調査として、インドのオーガニックコットンの農園を訪れました。学園祭の発表で使用する動画やパンフレットの素材を集めるためと、インターネットで取れるような情報ではなく自分が見聞きすることでしか感じることのできない情報を得るためです。
実際に行ってみて、作業量が多く大変だろうと想像していましたが、農家の方々は作業が楽しく何よりも収入が増えたのが嬉しいと笑顔でおっしゃっており驚きました。
私たちは「感情を揺さぶる情報によって消費者は生産者を応援するためにオーガニックコットンを買う」という仮説を検証するために、学園祭で二つの販売実験を行いました。
一つ目の実験では、感情を揺さぶる情報(子どもの笑顔等)と、揺さぶらない情報を与えてオキシトシン分泌の増加量を調べました。結果はどちらも約7割の人でオキシトシンが増加し、二つのグループの間に大きな差はありませんでした。
二つ目の実験では、購入者のオキシトシン量を比較しました。すると、オキシトシンの量が多いと購入の確率が1.728倍高まることが分かりました。
オキシトシンを増加させるにはどうしたらよいのか?が現在の課題で、引き続きゼミ生が研究を続けます。また、これまで大学祭でのみオーガニックコットン商品を販売していましたが、今後はキャンパス内でグッズ販売などを行っている「明大マート」で通常販売する予定です。共感を利用したマーケティング手法によって、どうやって情報を伝えればオーガニックコットン商品の購入につなげられるか、商品のデザインや販売、提案を通じて研究します。小さなことですが、SDGsの達成にむけて努力します。
胤森:現地を見たことが、みなさんの行動のパワーになったことが伺えました。みなさんが訪れたのはACEと興和株式会社が取り組んでいるP.I.Cプロジェクトの現場とのことです。このプロジェクトについて、TE理事として先ほどお話された興和株式会社の稲垣さんにもう少し説明をお願いします。
【発表2:テキスタイル・エクスチェンジ 理事 稲垣貢哉氏】
ACEが活動したインド南部のテランガナ州ガドワル地区では、児童労働はなくなったものの畑には農薬がたくさん残っており健康被害などの問題がありました。その解決のためにオーガニックコットンに移行するプロジェクトの実施を、ACEからの依頼で始めました。
開始当初、オーガニックコットンを栽培すれば全量買い取ると呼び掛けても5名ほどしか参加しませんでした。しかしACEの活動があったおかげで少しずつ話を聞いてくれるようになり、5年経って84軒の農家がオーガニックに取り組むようになりました。
オーガニック認証を取ることは手段であって、活動の目的は畑から農薬をなくすことです。遺伝子組み換えでない種子は入手困難なため、つてを頼って農民に提供しました。オーガニック認証を受けるためには3年間農薬や化学肥料、遺伝子組換種子を使わず栽培する必要がありますが、ある年の土壌検査で遺伝子組換種子が見つかり認証が取れませんでした。しかし重要なのは認証の有無ではなくオーガニックに移行していくことですから、私たちはそのコットンを買い取りました。農家の人たちが、一番嬉しいことは家族のためにオーガニックコットンをつくっていると言ってくれることが自分の実績だと思っています。
P.I.Cプロジェクトには旭化成も参加して、コットン繊維として使えない部分を加工してキュプラをつくっています。
日本では東日本大震災の後、津波により塩害で稲が育たなくなった土地でコットンを育てる「東北コットン」プロジェクトも始めました。昨年は収穫量が1ヘクタール当たり1トン近くになり、インドよりも高くなりました。日本で実績を積んだやり方をインドに伝えて活かしたいと考えています。
胤森:企業が手を組むことでオーガニックコットンの生産量をぐっと増やすことできるので、企業とNGOの連携はオーガニックやフェアトレードを広げていく鍵になると思います。
ここからは会場からの質問に答えていきます。「ACEのプロジェクトでは、児童労働のある家庭にアプローチして何パーセントくらいに効果が出るのでしょうか?」
田柳:先ほど稲垣さんからご紹介があったP.I.Cプロジェクトを行っている村では100%の子どもが学校に行くようになりました。児童労働をなくす「ピース・インド・プロジェクト」はACEが現地NGOと協力して進めており、村で住民ボランティア・グループを結成して将来的には住民たちが現地スタッフの仕事を担えるようにしています。子どもが働くことが当たり前と考えていた住民たちの中で意識が変わる人が増え、子どもを学校に行かせる親が増えると、住民同士で注意し合うようになります。最初は、子どもを学校に行かせていれば小規模融資のプログラムに申し込めるというインセンティブに惹かれて学校に通わせるようになる人もいますが、最終的には子どもの変化を見て教育の大切さに気づいていきます。
胤森:「貧しい家庭では子どもが働いたほうが家計の助けになるのでは?子どもが働かなくなっても教育資金を準備できるのでしょうか?」
田柳:村には公立学校があり、費用はかかりません。目先の利益を得るために子どもを働かせている場合も多く、意識を変えれば現状の支出の中で教育に充てられるものに気付くことができます。短期的には入ってくる賃金が減っても、将来的には子どもが教育を受けた方が収入が上がるかもしれないということに気づいていきます。卒業後に農家で働くことになるとしても、読み書きができることで効率的な農業を考えられたり、種子の購入の際に仲介人と交渉ができるなどで、収入が増えるのです。また、親だけでなく子ども自身も、学校で学ぶことの意義に気づくことが大事です。
胤森:「プロジェクト終了後、活動を村人に引き渡してどのように継続させていくのですか?」
田柳:住民ボランティアグループが、児童労働がないことを継続的にチェックしています。ACEのスタッフも、別の村を訪れる際に様子を見に行ったり、サポートが必要な問題があればすぐ電話で報告をもらいフォローするようにしています。
胤森:現地の人たちとコミュニケーションをとることはフェアトレードでも大切な要素ですが、「ピープルツリーでは生産者に対してどのような働きかけをしていますか?」
ミニー:国により生活習慣の違いで求めることが異なります。たとえばアクセサリーの生産者の国では、金具がとれたら店で直してもらうのが当たり前なので、それなりのつくりで安い方がいいと考えます。でも日本では、商品の値段が高くても壊れにくく完璧なものを期待しますから、最初からそういう違いを伝えればきちんとつくってもらえます。キャパシティビルディングとはそういった橋渡しの役割なのです。また、手織り生産者の中で、ある女性グループの収入が低かったので、スキルの高い別のグループで研修をしてもらいました。技術だけでなくチームの組み方など生産性を上げるコツを習得してもらった結果、ピープルツリーの買い取り価格は変わらないのに生産者の手取りが倍になりました。
胤森:「ピープルツリー創業時の28年前と比較して、フェアトレードの市場にどんな変化がみられますか?」
ミニー:当時はフェアトレードが日本のどこにも知られていませんでしたが、今はさまざまな活動家や事業家がフェアトレードに取り組んでいらっしゃいます。一握りの変わった人がやっていた活動から、おしゃれに見せるフェアトレードブランドが出るまでになりました。
胤森:しかし、「その割にはフェアトレード商品が普及していない」という意見がありますが?
ミニー:どうしたら普及できるかということをいつも考えています。活動を始めたとき、フェアトレードが当たり前となり、最終的には自分たちの活動が必要なくなる日が来るといいと思っていました。ワンピース1枚がサンドイッチ1つより安いという社会ではなく、モノの価値を知ってそれを着る充実感を感じるという社会にしたいと思います。モノの値段の他にも、過剰消費、大量廃棄の問題もあります。どう解決するかを皆さんと考えていきたいです。
胤森:廃棄物についての質問も受けています。「大企業がオーガニック、フェアトレードのものを大量につくったら大量廃棄の問題が起きるのではないでしょうか?」
稲垣:オーダーメイドから既製服、ファストファッションに変わってきた流れからすると確かにその可能性はないとは言えません。ただ、つくりすぎた服をリサイクルやアップサイクルする取り組みは増えてきています。まだ取り組みは十分ではないですが、それをリサイクルの基準で補っていく取り組みもあります。また、大企業を刺激するような小さな新たな取り組みも始まっています。例えば、消費者と一緒にSNSを使って商品を開発、3Dでパターンをつくることでサンプルを減らす、などです。今までと同じやり方では続かないと思っています。
胤森:普及していないという点ではオーガニックも同様です。「オーガニックコットンのシェアが0.5%ということでしたが、この数字は10年後どの程度増えていると思いますか?」
ラレー:オーガニックもフェアトレードも、商品の消費、認知度とも上がっていくと思います。そのために投資をすることで変化が生まれます。今のビジネスモデル、価格構造がコットン農家の深刻な貧困を生み出してきました。ピープルツリーが生産者のキャパシティビルディングに投資をしてきたように、農家が持続可能な生産をするための投資が必要です。投資で変革を起こすことは可能です。
10年後の数値は、消費者がもっと知り、買うものの価値を理解して買うようになり、問題の一部となる代わりに解決を担うことで上がっていくと信じています。
胤森:何%になるかは私たち次第ということですね。投資が必要というご発言がありましたが、多くの方から、「オーガニックやフェアトレードのものは値段が高く消費者がなかなか買えない」という意見が寄せられています。値段についてどうお考えですか?
ミニー:フェアトレードでないものが安すぎるのが現状だと思います。日本では、15年ほどの間に消費者が買っている衣料品の数は15%増ですが、供給数はそれをはるかに上回って供給過剰です。消費者の手に渡らずに廃棄されているものが増えています。いつでも欲しいときに買えるようにするビジネスモデルがつくりすぎを生み、安いからたくさん買い、着なくなって捨てています。どこで誰がつくったかわからない、思い入れのないものであることもその一因だと思います。思いがあるものを使うことによって得る充実感に価値を置くようになれば、枚数を少なくしていいものを着るようになると期待したいです。
胤森:つまり今の値段は、フェアなつくり方をせず農薬や化学肥料を使って大量生産することで実現されたもので、その値段の方が問題だということですね。
ミニー:そうです。従来型の経済学では、環境汚染や人の搾取は商品の対価に入らないのです。そのコストを負担しているのは、生産地の住民やつくっている労働者など消費者以外の人たちで、そのために商品が安くなってしまっています。
岡:従来型の経済学で言う「消費者の満足」について、安いものを買うことが満足なのか?という疑問が出始めています。これまでは同じ金額で10枚買えるのと7枚買えるのでは10枚のほうがよいとされていました。しかし、数値化できないこだわりや充実感などを感じて7枚買った場合、消費者は損をしているとは言えません。「幸福の経済学」では、買う時の満足度と買った後の満足度を比べ、安いものを買った人は必ずしも幸せになっていないことを示しています。こだわりがある7枚を買った人の方が得をしているという研究結果が、最近いろいろ出ています。安いものを買うことが本当に自分の満足につながるのか消費者は分からなくなっており、それをクリアにしていくのが本当の経済学の役割だと思います。
ラレー:ちょうど今グローバルプラザの階下で「ファッションと気候変動」の展示が行われており、Tシャツを長く着ることによってどれだけ気候変動に好影響を与えることができるのかということが分かります。ぜひ見に行ってください。(8月31日まで展示)
胤森:価格に関連して、「認証のコストをどう考えますか?」
ミニー:認証コストが高いので大きな組織でないと認証を受けられないという悩みがあります。フェアトレード団体は小規模生産者が多いので、大手の監査会社から査察員を呼んで監査を受けるコストは負担できません。
WFTO(世界フェアトレード連盟)では、加盟団体同士でお互いにヒアリングする、グループをつくって一緒に監査を受けるなどの工夫によって監査コストを削減し、手軽にできて信頼できる認証制度をつくっています。
稲垣:TEはいろいろな認証基準を持っており、製品が正当な工程でつくられているかを外部組織がチェックしています。認証検査に費用はかかります。大きな工場で全工程が行われていれば安く済みますが、日本のように工程が分かれていると、工場ごとの検査に費用がかかってしまいます。そこでTEでは、セントラルデータベース・システムをつくり、GOTSなど他の認証基準で受けた検査結果をデータベース化して書類を減らす、グループで認証を受けられるようにするなど、費用の低減を進めています。興和は世界で最も認証費用を払っている会社のひとつであり、コストが高いことをよく知っていますから、TEに相談しながらコストを下げる工夫をしています。
胤森:「ピープルツリーが活動を続けていく上で困難だったことは何ですか?」
ミニー:始めた頃は、誰も知らなかったことをどうやって広めていくか分かりませんでした。いろいろな人に会うことで活動を続けることができましたが、語り尽くせないほどの困難がありました。
胤森:他にも質問はたくさんいただきましたが、すべてにお答えできません。どうやって広めるかのアイディアをいくつかいただいた中で多かったのは、SNSを使って情報を広めるというものでした。ACEはSNSをどのように活用していますか?
田柳:「ストップ!児童労働キャンペーン」で、レッドカードを挙げた写真を撮ってハッシュタグ「#STOPCL」をつけてSNSにアップすることを呼び掛けています。また、インスタグラムでは、企業の協力で児童労働があるコットンなどの商品の動画を作り、苦しむ子どもの手で作られた製品が私たちの手元にくるキャッチーな映像で広めることを行いました。SNSは特に若い人への波及力があると感じています。
胤森:「若い人にできること、私にできることは?」という質問を多くいただいているので、最後にパネリスト全員からメッセージをお願いします。
稲垣:洋服を買うときに、この服がどこからどうやってつくられているのか考えてください。インターネットの情報を信じすぎずに、自分の頭で考えてみましょう。いろいろ面白い活動があるので、私に聞いてもらえれば紹介できます。参加してください。
ラレー:みなさんは大きな力を持っている世代です。みなさんの選択で変化を生むことができます。賢く選んでください。情報を持って意思決定し、消費する人になってください。児童労働をなくすにも農薬の害をなくすにも、みなさんは大きな力を持っているので、それを賢く使ってください。
ミニー:どうせ買うならフェアトレードかオーガニック。買いたいと思ったとき、自分の生活の何が充実するのか、自分が本当は何を求めているのかを考えてください。買っても満足しないでもう一枚買う、ということから脱皮しましょう。
田柳:昨年ミラノのTE国際会議で、ある日本企業の参加者から「児童労働はもう古い」と言われました。持続可能な繊維について勉強している方が、児童労働はもう解決した問題ととらえていたのです。海に流れ込んでいるマイクロプラスチックなどさまざまな問題に対応しなければならないのは確かですが、今話題になっている問題だけに対応する傾向があります。世界を変えるには企業を変える必要があり、企業を変えるには消費者の声が必要です。企業に問題を伝えてくのが消費者としてできることだと思います。問題があることをSNSにアップするだけでなく、その情報を誰にどう届けるかも考えることでより波及力を持つ行動になります。ぜひ、いろいろなアイディアをお寄せください。
岡:まず自分の幸せについてもう少し考えましょう。安いものをたくさん買うのが幸せか?自分自身が幸せになるためにどういったものを買うのか?高いものを買うことで子どもたちに物語を伝えられるなど、有形無形の価値があることに気付くことです。
これまでのフェアトレードやオーガニックの訴求方法は、環境や現地の人のためなど自分以外の誰かのために高いものを買うというアプローチでした。しかしひるがえって、買うことは私のため、フェアトレードやオーガニックが自分の幸せになるということを考えていきましょう。
胤森:フェアトレードとオーガニックでまず自分が幸せになり、それを他の人にも伝えていく、ということですね。みなさんがここで得たことを周りの人に広げていただければと思います。
<登壇者プロフィール>
ラレー・ペッパー (La Rhea Pepper) :テキスタイル・エクスチェンジ 代表
テキサス州ラボック出身。コットン農家の5代目。1990年代初頭にオーガニックコットンの栽培を開始し、オーガニックコットン・ムーブメントにおける重要人物となる。 テキサス・オーガニック・コットン・マーケティング協同組合を共同設立し、現在までに40の生産者メンバーが年間10,000〜19,000エーカーのオーガニックコットンを育てるまでに成長している。
田柳優子(たやなぎ・ゆうこ):認定NPO法人ACE インド・プロジェクト・マネージャー
大学在学中にストリートチルドレンを保護するインドの現地NGOでインターンシップを経験。帰国後にACEのスタディツアーで再びインドを訪れ、児童労働の問題に関わるようになる。卒業後、企業での勤務を経て、2015年より現職。インドのコットン生産地の児童労働撤廃・予防プロジェクトの管理の他、日本で企業との連携によるフェアトレードやオーガニックなどのエシカルな製品の推進、消費者や学校向けに講演活動等を行う。
稲垣貢哉(いながき・みつや):テキスタイル・エクスチェンジ 理事
1987年興和株式会社入社。2003年11月オーガニックコットン製造小売事業“Tenerita”をスタート。2007年よりオーガニック・エクスチェンジ(現テキスタイル・エクスチェンジ)理事。2014年よりNPO法人ACEと協業で「Peace India Cotton」プロジェクトを実施し、オーガニックコットンへの転換事業で農業チャレンジ中。
ミニー・ジェームズ(James Minney):ピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)代表取締役社長
英国オックスフォード大学ベリオルカレッジ卒業後、ロンドンおよび東京の日系/外資系の大手金融機関に勤務。この間、サフィア・ミニーをサポートし、1991年NGO「グローバル・ヴィレッジ」を創立。1995年フェアトレードカンパニー株式会社(FTCo)を、2001年ロンドンに「ピープルツリーリミテッド(PTLtd)」を設立。2007年に金融機関を退職し、FTCo及びPTLtdの取締役に就任。2008年ロンドンにFTCoとPTLtdの持株会社「ピープルツリーフェアトレードグループリミテッド(PTFTG)」を設立、同社の取締役に就任。2015年FTCoの代表取締役に就任し、現在に至る。
岡通太郎(おか・みちたろう):明治大学農学部食料環境政策学科講師(共生社会論研究室)
1971年生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科卒業。博士(地域研究)。京都大学東南アジア研究所講師、ロンドン政治経済大学客員研究員を歴任。ゲーム理論、幸福の経済学、行動経済学などを用いた持続可能な市場についての実証研究。
胤森なお子(たねもり・なおこ):グローバル・ヴィレッジ 代表
1999年ボランティア参加を経てピープルツリー(フェアトレードカンパニー株式会社)のスタッフとなり編集や広報を担当。フェアトレードのスポークス・パーソンとしてセミナー講師などを務める。2006年~2016年まで同社常務取締役。現在、同社の母体NGOグローバル・ヴィレッジにてフェアトレードの啓発・推進活動を担当。一般社団法人 日本フェアトレード・フォーラム 代表理事。
この記事は、ピープルツリーの母体NGO「グローバル・ヴィレッジ」が作成しました。
グローバル・ヴィレッジは、イベントやキャンペーンを通じて貿易や消費社会の問題点を伝え、途上国の立場の弱い人々の自立を支援 するフェアトレードの普及・促進を行うと共に、生産国の教育・環境プロジェクトの支援を通じて生産者をサポートしています。
こういった活動を安定して継続的に行うため、会員となって活動を支えてくださる方を募集しています。詳しくは、こちら。