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記事: Time Out Tokyoコラボレーション連載「ボーダレスな人びと」第5回

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Time Out Tokyoコラボレーション連載「ボーダレスな人びと」第5回

ライフスタイルマガジン「Time Out Tokyo(タイムアウト東京)」とピープル・ツリーのコラボレーション連載、第5回目に登場するのは、モーツァルト国際コンクールにおいて日本人で初めて優勝を果たしたピアニストの菊池洋子。ヨーロッパを拠点に、世界をボーダレスに活躍するその原点を聞いた。



菊池洋子(ピアニスト)



- ピアノを始めたきっかけは?



4歳の時、幼稚園の先生が毎日弾いてくれるピアノがすごく好きで、なんて素敵な音なんだろうって思ったのがきっかけです。私が大好きだったのが、お昼寝の時間に先生が弾いてくれるエステンの「人形の夢と目覚め」という曲でした。その曲を聞くのが楽しみで幼稚園に通っている感じ。それで両親にピアノを習いたいってお願いしたんです。



- その頃からピアニストを目指していましたか?



将来はピアニストになりたいとずっと思っていました。これは、一度も変わらない夢です。そういえば、七夕の短冊にも毎年「ピアニストになります」って書いていましたね。小さな頃は、練習をいやだと思ったことはなかったです。どんどん新しい曲を弾けることが楽しかった。学校でも早く家に帰ってピアノが弾きたいと思っていたぐらい(笑)。


- 菊池さんにとっての転機はいつでしたか?



一番大きな転機は中学1年生の時に田中希代子先生(数々の国際コンクールで日本人初入賞した日本を代表する伝説のピアニスト) と出会ったことです。音楽っていうのはひとつの音、ひとつのフレーズをとっても、弾く人や考え方によってこれだけ変わるんだということを知りました。ひとつの音を何回も何回も試して、こういう音が出したいというイメージをつくっていく。こんなに深いものだったんだと感動したことを覚えています。高校卒業直前に、希代子先生が亡くなって勉強の場をヨーロッパに移そうと決意しました。第2の転機が18歳でイタリアに留学したことですね。そこで13年間勉強しました。そして、今住んでいるベルリンに移ったのが数年前。これも大きな転機でした。



- イタリアで勉強した中で大きかったことは何ですか?



イタリアに行く前までは、どんな演奏がしたいか聞かれても、ここはこう答えるべきだろうというような優等生の答えしかできなくて、自分の個性を隠すように、こわごわ表現していたところがありました。でもイタリアでは、人と違う意見を持っていることが個性としてすごく評価されるんです。だから、ひとりひとりがびっくりするぐらいいろいろな意見を持っています。時間はかかったけれど、自分をオープンにして、意見のはっきりした演奏ができるようになってきたのは大きいですね。


- あえてドイツに行った理由は?



イタリアのことは本当に大好きで、気候も人も食べ物も最高で、居心地がいいんです。でも今の時点で、ここで学べることは学んだと思って、何か新しい勉強をしていかないと自分の成長にはつながらないと感じてしまって。自分の中にアイディアはすごくたくさんあるのに、ちゃんと整理できていない感じをベルリンに行くことで脱したかったのかもしれません。
ベルリンでは、いろいろな演奏会やオペラを聴いたり、私にとっては最高の環境。そしてここで再会したのが、当時ベルリンフィルの首席ホルン奏者だったラデク・バボラーク。彼は常に世界最高の指揮者の元で演奏してきて、ものすごく音楽のアイディアを持っているんです。趣味のいい音楽のつくり方というのかな。彼と共演することで、テクニックやペダルの使い方、音の出し方など私自身、本当にたくさんのことを学んでいます。



- バレエも好きだそうですね。



ベルリンで初めて「白鳥の湖」を観てからハマってしまって、同じ演目でも行ける時はすべて行っています。バレエを観ることによって、自分の演奏のイメージも広がります。新しいアルバムの「ロマンティック・アンコール」では、「白鳥の湖」の「情景」をオーケストラのスコアを見て、自分でアレンジしました。あまりに好きすぎて(笑)。



- 今年に入ってバレエとの共演も立て続けにありましたね。



そうなんです。オーケストラやリサイタルで弾くのとは、全くアプローチの仕方が変わっておもしろい経験でした。バレエは、ダンサーのステップがあるからテンポをすごくゆっくりにすることもあれば、息づかいをたっぷり取らないといけないことがあったり、どんなテンポもあり得るんです。でもそういうふうに弾いた時に、今まで気がつかなかったすごく素敵なハーモニーを見つけたり、隠れたリズムを見つけたりという新しい発見があって。その作品を全く別の角度から見ることができました。私にとって、バレエと共演することは、ただダンスに合わせるのではなくて、自分の成長にもつながっています。



- ベルリンは旬な場所なんですね。



音楽家だけでなく多くのアーティストが集まっている感じはあります。ベルリンで聴く演奏会は、私が住んでいたイタリアのイモラで聴く演奏会とは演奏家の気合いが違うように感じました。ここにいればいつでも最高のクオリティーの音楽を聴くことができます。でも、それは日本にも言えるんです。日本はアーティストに対するリスペクトが世界で一番だと感じます。私の知り合いの海外の音楽家たちも日本に行くっていうとすごく気合いが入って、最高の準備と演奏をしようと努力しています。そういう意味で、東京、ニューヨーク、ベルリンの3都市は、クオリティーの高い演奏を聴くことができると思います。

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- 演奏会は緊張しますか?



それはします。一人の前で弾くのも数千人の前で弾くのも同じ緊張です。演奏会が始まる直前に、オーケストラがオーボエの音でチューニングをしますよね。あれを聞くと、もう逃げられないっていう心境です。まさに覚悟を決める音。



- 何かおまじないがあったりしますか?



留学する時に家族からもらったネックレスと親友がパリで買ってきてくれたメダイユは寝る時も身につけているお守りです。これはコンサートの時ももちろんつけています。あとは、本番前に毎年お参りしているお寺のお守りを楽譜の中に入れておくんです。お願いしますって。これは毎回しています。あとは、毎日の練習ですね。



- どのぐらい練習されているのでしょうか?



日にもよりますが、毎日8時間は練習しています。インタビューでそう答えると、すごいですねって言われることが多いのですが、よく考えたらオフィスで働いている方たちと変わらないんです。ただひとつ違うのは、会社員の人たちは仕事が終わった後に自由時間が始まるけれど、私たち音楽家にとっては、楽器を弾いている時がいきいきとしている自由な時間なんです。ピアノに向かっている時間が、みんなが仕事を終えた後に楽しむ時間と同じ感覚なんだと思います。



- 練習はコンサートのためですか? それとも日々の修練ですか?



モーツァルトは一生取り組んでいく中でのひとつひとつの演奏会という想いで続けています。近現代、コンテンポラリーのレパートリーは、演奏会にクライマックスをつくるように準備します。室内楽の場合は、共演する相手によって違います。前日にリハーサルがあって、翌日が本番ということも多いのですが、それだと合わせて弾いて終わったという感じになってしまいます。例えば、ホルンのラデク・バボラークやクラリネットのアンドレアス・オッテンザンマーなどは、ひとつの演奏会にもかかわらず、3回も4回もリハーサルをします。朝10時から夜6時まで食事もせずにリハーサルして。でも集中しているから、あっという間。これは、次の日のコンサートの準備をしているのではなく、お互いに音楽が好きで合わせ始めたら、ああしようとかこうしようっていうアイディアが湧き出てきて止まらなくなってしまう。まさに情熱。だから練習ではないんです。そういう時間が私にとって最高の時間です。


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菊池洋子 Yoko Kikuchi
2002年第8回モーツァルト国際コンクールにおいて日本人として初めて優勝して一躍注目を集めた。その後、2003年にザルツブルク音楽祭のモーツァルト・マチネに出演するなど国内外で活発に活動を展開し、いまや実力・人気ともに日本を代表するピアニストの一人。国内の主要オーケストラとの共演はもとより、国際的にもリサイタル、オーケストラとの共演、室内楽演奏会で成功を収めている。CD録音も活発に行い、モーツァルト・アルバムをエイベックス・クラシックスより3枚、オクタヴィアより室内楽アルバムをリリースしている。最新版は、小品集「ロマンティック・アンコール」(エイベックス・クラシックス)。第17回出光音楽賞受賞。
オフィシャルwebサイト:http://www.yokokikuchipf.com/



■菊池洋子ピアノ・リサイタル
2013年12月13日(金)19:00/紀尾井ホール
プログラム/シューマン:交響的練習曲 op.13(遺作つき)
※後半は、新譜「ロマンティック・アンコール」の収録曲から、リクエストの多い曲を演奏。あなたのリクエストで曲が決まるコンサートです!
全指定席¥5,000
詳しくはAMATI(アマティ)まで。Tel.03-3560-3010



衣装協力:
ピープル・ツリー
オーガニックコットン・ボーダー・プリントTシャツ(ブルー)
/products/168115/


About Time Out Tokyo
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