マカイバリとラジャ・バナジー氏の新たな挑戦
~ダージリンからの便りと、みなさまへのご報告~
ピープルツリーが20年以上にわたりお届けしているインド、マカイバリ茶園のダージリン紅茶。
はじまりは1994年、茶園主のS.K.バナジー氏との出会いでした。
歴史あるマカイバリ茶園を父から受け継ぐにあたり、4代目となるS.K.バナジー氏は、茶畑をとりまく山々の生態系との調和を大切にしたいと考え、人智学者シュタイナーの哲学にもとづくバイオダイナミック農法での茶づくりを始めました。自然や宇宙のリズムと調和した農法は、茶園の村に住み茶園で働くひとびととその家族1700人の健康と、サステナブルな暮らしを守ることにもつながっています。
とくに手摘みの収穫を担う村の女性たちを薪拾いなどの重労働から解放するために、バイオガスを供給する設備を開発・供給したり、茶園の中に学校をつくるなど、バナジー氏はさまざまな取り組みを実現しました。
いくつかの山々を擁す茶園の土地の3分の2、約400ヘクタールは原生林のまま残され、生態系を守りながら40年にわたり育まれてきた茶園には、「ティー・ディーバ」(紅茶の女神)と呼ばれる茶葉にそっくりな擬態虫(写真)が現れました。「もし農業が真にホリスティックな状態で行われていれば、重要な作物には擬態ができるだろう」というシュタイナーの言葉どおりになったのです
学校に通う子どもたちや茶摘みの女性たちが歩く茶畑の土も、豊かにふかふかとしています。
その思いを熱く語るバナジー氏の言葉と、マカイバリ茶園で大切につくられるお茶の風味には、出会うひとびとを魅了する、生命のエネルギーがあふれています。
そして近年では、ダージリン地方の他の茶園でも、バナジー氏の影響と指導を受け、オーガニック栽培、働くひとびとの権利を守るフェアトレードが広がっています。
ところが、昨年夏にこの地方で起きた民族紛争による大規模なストライキで、ほぼすべての茶園でお茶づくりができなくなったというニュースが世界中を駆け巡りました。
インドは日本の8倍の国土を持ち、多様な民族がそれぞれの地方の風土に根差した文化と暮らしを営んでいます。ダージリン地方は北東部、西ベンガル州にあり、ヒマラヤ山脈の懐、ネパールとの国境に位置し、もともとシッキム王国が少数民族を治める土地の一部でした。
シッキム王国は1975年にインドに併合され西ベンガル州とシッキム州に分かれ、異なる民族はそれぞれの固有の文化と尊厳を主張してきました。昨年2017年の6月、ダージリン地方で起こった民族独立・自治権を求める運動は、大規模なストライキへと発展し、さらに中国との国境をめぐる周辺地域での紛争も起こり、ダージリン地方の交通機関、ホテル、商店、政府系オフィスも3か月にわたって機能停止状態となり、マカイバリを含むすべての茶園が何人も立ち入れないまま放置されることになりました。
2017年9月、西ベンガル州知事ママタ女史の強いリーダーシップによってこのストライキは終結しましたが、ダージリン地方の茶園が受けたダメージは大きく、荒れた茶畑地の回復には数か月を要しました。秋摘みの収穫・生産量は前年までに比べ約9割減、市場価格が20%以上も上昇し、世界中の大手バイヤーの多くがダージリン紅茶の仕入れを取り止めて他の産地からの調達に切り替えるという、茶園にとっては維持存続が危ぶまれるようなとても深刻な事態となりました。
そんな中でも、マカイバリ茶園では丹念に茶木の手入れが続けられ、秋摘みオータムナルの時期には少量の茶葉を摘み取ることができました。天候にも恵まれた2018年春、ファーストフラッシュの頃には、想像を超える良質なお茶をつくることができ、茶園では喜びの声があふれました。まだ茶木の手入れ、回復の作業が続けられている中、マカイバリ茶園でも、8月には夏の茶摘みができたとのこと。やはり量は少なめながら、良質な仕上がりが期待できそうです。
バナジー氏は今、ダージリン地方からさらにシッキム州へと活動の場を広げ、州政府とともにオーガニック&バイオダイナミック農法による紅茶づくりに取り組み、大きな貢献をされています。
シッキム州には、インドで唯一、政府が経営する茶園「テミ茶園」があり、50年近くにわたり人々に安定した仕事と収入の機会を提供しています。440エーカーの広大なこの茶園は、1969年、当時のシッキム王国の王様が人々の暮らしの糧をつくるために開拓しました。その時、マカイバリ茶園からたくさんの苗木を贈り、王様を支援したのが先代、バナジー氏のお父さんでした。
美しい山々に囲まれ、インドの桃源郷ともよばれるこの地は、ネパール、チベット、ブータンに囲まれ、かつてはチベットへの玄関口として交易が盛んな地域で、ダージリンのひとびととも親しく交流し助け合ってきたのです。
テミ茶園では現在427人が常勤でお茶づくりと茶園の運営に携わり、茶摘みの季節にはさらに120人が働いています。政府の経営により給与はインドの中で最も高い水準、医療や託児所や子ども教育など地域の人々に必要な福利についても茶園がしっかりとサポートしており、フェアトレードの認証を取得しています。
また、シッキム州はもともと、州全体で農業のオーガニック転換に取り組んだ、インドでも珍しい州で、紅茶だけでなくすべての農作物が有機栽培で育てられています。
テミ茶園も2005年にオーガニック農法を取り入れ、2008年には茶園全体がオーガニックに切り替わりました。
そして、こういったシッキム州の取り組みに共感したバナジー氏は、父の代からの縁があり理念と価値観を共有するシッキム州に活動の拠点を移し、より広範囲にわたるバイオダイナミック/オーガニックの指導を続けています。
これはマカイバリ茶園で長年にわたりバナジー氏と共に働いてきた仲間たちにとっても、新たなチャレンジとなり、マカイバリでは初めての女性管理職が誕生し、コミュニケーションのリーダーシップを担うなど、素敵な変化も起こっています。
バナジー氏は近年、講演や広報の活動で海外を旅することも多く、自身の不在のマカイバリ茶園への影響は何もない、と茶園の仲間に厚い信頼を寄せています。
バナジー氏がマカイバリで培ってきた、お茶づくりを通じて実現する地域の人々の健康と暮らしの安定、生態系と調和したサステナブルなコミュニティづくりという活動は今、壮大な信念に基づいてさらにそのすそ野を広げ、世界に広がる道の途にあるのだと、ピープルツリーは共感し、確信しています。
「テミ茶園は肥沃な土地と良質の茶樹に恵まれています。人々も一所懸命に働き、指導したとおりに実践してくれるので、最高のお茶ができることを期待しています。」とラジャ・バナジー氏は語ります。
シッキムはダージリンと似た気候で、春・夏・モンスーン、秋の4つの季節の紅茶は味・香りともにダージリン紅茶に近く、高い標高ならではの、華やかなフローラルな香り、繊細でまろやかな味は今、幻の紅茶として世界中から注目されている、とも。
自分の目の前にある環境と人との関係のなかで最善を尽くし、ひとつひとつ理想の形へと実現してゆく、バナジー氏の姿勢は、私たちに多くのことを教えてくれます。
ピープルツリーでは、これまでと変わりなく、マカイバリ茶園とバナジー氏の取り組みを応援し、季節ごとのお茶の風味とともに、茶園の様子をみなさんにお伝えしてまいります。
この春に摘まれたお茶を日本のみなさまにお届けするにあたり、現地での生産量の一時的な減少と価格の上昇を容認しながら、日本での販売価格を維持できるよう、弊社としてできる限りの努力と調整をしておりますことをお伝えいたします。
昨年からのいくつもの困難を乗り越えてつくられ、オークションでも高い評価を得た「上質な」お茶を、どうぞお楽しみください。
バナジー氏もお茶の作り手たちも、この春・夏のお茶の出来を、とても誇りにしています。
今後とも、バナジー氏とマカイバリの人々が育んできたバイオダイナミック・ダージリン紅茶を変わりなくご愛顧いただき、応援し続けていただけますよう、願っております。
「牛は、バイオダイナミックを象徴する生き物」とバイオダイナミックの概念を語りながらバナジー氏が描いた絵。(2014年、来日の時)
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はじまりは1994年、茶園主のS.K.バナジー氏との出会いでした。
マカイバリ茶園のダージリン紅茶
歴史あるマカイバリ茶園を父から受け継ぐにあたり、4代目となるS.K.バナジー氏は、茶畑をとりまく山々の生態系との調和を大切にしたいと考え、人智学者シュタイナーの哲学にもとづくバイオダイナミック農法での茶づくりを始めました。自然や宇宙のリズムと調和した農法は、茶園の村に住み茶園で働くひとびととその家族1700人の健康と、サステナブルな暮らしを守ることにもつながっています。
とくに手摘みの収穫を担う村の女性たちを薪拾いなどの重労働から解放するために、バイオガスを供給する設備を開発・供給したり、茶園の中に学校をつくるなど、バナジー氏はさまざまな取り組みを実現しました。
いくつかの山々を擁す茶園の土地の3分の2、約400ヘクタールは原生林のまま残され、生態系を守りながら40年にわたり育まれてきた茶園には、「ティー・ディーバ」(紅茶の女神)と呼ばれる茶葉にそっくりな擬態虫(写真)が現れました。「もし農業が真にホリスティックな状態で行われていれば、重要な作物には擬態ができるだろう」というシュタイナーの言葉どおりになったのです
学校に通う子どもたちや茶摘みの女性たちが歩く茶畑の土も、豊かにふかふかとしています。
その思いを熱く語るバナジー氏の言葉と、マカイバリ茶園で大切につくられるお茶の風味には、出会うひとびとを魅了する、生命のエネルギーがあふれています。
そして近年では、ダージリン地方の他の茶園でも、バナジー氏の影響と指導を受け、オーガニック栽培、働くひとびとの権利を守るフェアトレードが広がっています。
ところが、昨年夏にこの地方で起きた民族紛争による大規模なストライキで、ほぼすべての茶園でお茶づくりができなくなったというニュースが世界中を駆け巡りました。
インドは日本の8倍の国土を持ち、多様な民族がそれぞれの地方の風土に根差した文化と暮らしを営んでいます。ダージリン地方は北東部、西ベンガル州にあり、ヒマラヤ山脈の懐、ネパールとの国境に位置し、もともとシッキム王国が少数民族を治める土地の一部でした。
シッキム王国は1975年にインドに併合され西ベンガル州とシッキム州に分かれ、異なる民族はそれぞれの固有の文化と尊厳を主張してきました。昨年2017年の6月、ダージリン地方で起こった民族独立・自治権を求める運動は、大規模なストライキへと発展し、さらに中国との国境をめぐる周辺地域での紛争も起こり、ダージリン地方の交通機関、ホテル、商店、政府系オフィスも3か月にわたって機能停止状態となり、マカイバリを含むすべての茶園が何人も立ち入れないまま放置されることになりました。
2017年9月、西ベンガル州知事ママタ女史の強いリーダーシップによってこのストライキは終結しましたが、ダージリン地方の茶園が受けたダメージは大きく、荒れた茶畑地の回復には数か月を要しました。秋摘みの収穫・生産量は前年までに比べ約9割減、市場価格が20%以上も上昇し、世界中の大手バイヤーの多くがダージリン紅茶の仕入れを取り止めて他の産地からの調達に切り替えるという、茶園にとっては維持存続が危ぶまれるようなとても深刻な事態となりました。
そんな中でも、マカイバリ茶園では丹念に茶木の手入れが続けられ、秋摘みオータムナルの時期には少量の茶葉を摘み取ることができました。天候にも恵まれた2018年春、ファーストフラッシュの頃には、想像を超える良質なお茶をつくることができ、茶園では喜びの声があふれました。まだ茶木の手入れ、回復の作業が続けられている中、マカイバリ茶園でも、8月には夏の茶摘みができたとのこと。やはり量は少なめながら、良質な仕上がりが期待できそうです。
バナジー氏の新たな挑戦
バナジー氏は今、ダージリン地方からさらにシッキム州へと活動の場を広げ、州政府とともにオーガニック&バイオダイナミック農法による紅茶づくりに取り組み、大きな貢献をされています。
シッキム州には、インドで唯一、政府が経営する茶園「テミ茶園」があり、50年近くにわたり人々に安定した仕事と収入の機会を提供しています。440エーカーの広大なこの茶園は、1969年、当時のシッキム王国の王様が人々の暮らしの糧をつくるために開拓しました。その時、マカイバリ茶園からたくさんの苗木を贈り、王様を支援したのが先代、バナジー氏のお父さんでした。
美しい山々に囲まれ、インドの桃源郷ともよばれるこの地は、ネパール、チベット、ブータンに囲まれ、かつてはチベットへの玄関口として交易が盛んな地域で、ダージリンのひとびととも親しく交流し助け合ってきたのです。
テミ茶園では現在427人が常勤でお茶づくりと茶園の運営に携わり、茶摘みの季節にはさらに120人が働いています。政府の経営により給与はインドの中で最も高い水準、医療や託児所や子ども教育など地域の人々に必要な福利についても茶園がしっかりとサポートしており、フェアトレードの認証を取得しています。
また、シッキム州はもともと、州全体で農業のオーガニック転換に取り組んだ、インドでも珍しい州で、紅茶だけでなくすべての農作物が有機栽培で育てられています。
テミ茶園も2005年にオーガニック農法を取り入れ、2008年には茶園全体がオーガニックに切り替わりました。
そして、こういったシッキム州の取り組みに共感したバナジー氏は、父の代からの縁があり理念と価値観を共有するシッキム州に活動の拠点を移し、より広範囲にわたるバイオダイナミック/オーガニックの指導を続けています。
これはマカイバリ茶園で長年にわたりバナジー氏と共に働いてきた仲間たちにとっても、新たなチャレンジとなり、マカイバリでは初めての女性管理職が誕生し、コミュニケーションのリーダーシップを担うなど、素敵な変化も起こっています。
バナジー氏は近年、講演や広報の活動で海外を旅することも多く、自身の不在のマカイバリ茶園への影響は何もない、と茶園の仲間に厚い信頼を寄せています。
バナジー氏がマカイバリで培ってきた、お茶づくりを通じて実現する地域の人々の健康と暮らしの安定、生態系と調和したサステナブルなコミュニティづくりという活動は今、壮大な信念に基づいてさらにそのすそ野を広げ、世界に広がる道の途にあるのだと、ピープルツリーは共感し、確信しています。
「テミ茶園は肥沃な土地と良質の茶樹に恵まれています。人々も一所懸命に働き、指導したとおりに実践してくれるので、最高のお茶ができることを期待しています。」とラジャ・バナジー氏は語ります。
シッキムはダージリンと似た気候で、春・夏・モンスーン、秋の4つの季節の紅茶は味・香りともにダージリン紅茶に近く、高い標高ならではの、華やかなフローラルな香り、繊細でまろやかな味は今、幻の紅茶として世界中から注目されている、とも。
自分の目の前にある環境と人との関係のなかで最善を尽くし、ひとつひとつ理想の形へと実現してゆく、バナジー氏の姿勢は、私たちに多くのことを教えてくれます。
ピープルツリーでは、これまでと変わりなく、マカイバリ茶園とバナジー氏の取り組みを応援し、季節ごとのお茶の風味とともに、茶園の様子をみなさんにお伝えしてまいります。
この春に摘まれたお茶を日本のみなさまにお届けするにあたり、現地での生産量の一時的な減少と価格の上昇を容認しながら、日本での販売価格を維持できるよう、弊社としてできる限りの努力と調整をしておりますことをお伝えいたします。
昨年からのいくつもの困難を乗り越えてつくられ、オークションでも高い評価を得た「上質な」お茶を、どうぞお楽しみください。
バナジー氏もお茶の作り手たちも、この春・夏のお茶の出来を、とても誇りにしています。
今後とも、バナジー氏とマカイバリの人々が育んできたバイオダイナミック・ダージリン紅茶を変わりなくご愛顧いただき、応援し続けていただけますよう、願っております。
「牛は、バイオダイナミックを象徴する生き物」とバイオダイナミックの概念を語りながらバナジー氏が描いた絵。(2014年、来日の時)
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