【フェアトレードの学校レポート】顔の見える物流プロジェクト~チョコレートと想いを船に乗せて~
2022年1月30日、日本郵船株式会社(NYK)デジタル・アカデミーのお三方をお招きして、「顔の見える物流」をテーマにフェアトレードの学校を開催しました。
おりしも、「マクドナルドのポテトが不足」というニュースが世間を騒がせていた頃。原因は、ポテトを乗せた船が経由するカナダで起きた洪水被害の影響と、新型コロナウイルスのパンデミックによる世界的な物流の滞りにより、船便が遅れたからとのことでした。
このように、物流が話題になるのは、何か不測の事態が起きたとき。滞りなく物流が動いているときには、人々の意識にのぼることはあまりありません。しかし、スムーズにものが運ばれてくるのは当たり前のことではなく、そのために尽力してくれている「運ぶ人」がいてこそ。今回のフェアトレードの学校では、そんな「運ぶ人」にフォーカスしつつ、私たちの生活との関わりや、社会課題、環境問題について取り上げました。
日本の海運事情を知る
ここでクイズです。
「日本の食料自給率は何%でしょうか?(カロリーベース)」
① 28% ②38% ③65%
答えは②。
食料品の6割以上が海外から輸入されています。運んでくるのがコンテナ船。全長300~400メートル、1隻で数千~2万個のコンテナを運ぶことができるそう。今回のチョコレートもコンテナ船に乗ってやってきました。(船首から船尾まで、1枚の写真に収まりません!)
そのほか、日本の消費エネルギーの約半日分を運べる原油タンカー、7000台の車を乗せられる立体駐車場のような自動車船、液化天然ガスを運ぶLNGタンカー、石炭や鉄鉱石を運ぶばら積み船(バルクキャリア)などをご紹介いただきました。実にいろいろなものが船で運ばれてきていますが、それでは
「日本の輸出入における「海運」の占める割合は、重量ベースでどれくらいでしょう?」
① 50% ②88.9% ③99.6%
答えは③。
海に囲まれている日本、想像した以上に船に頼っていることが分かりました。日本の今の生活は、海運によって成り立っていると言っても過言ではありません。「だからこそ、多くの人に、海運についてもっと知っておいてほしい」という言葉が心に響きました。
船員たちを取り巻く課題、仕事、暮らし
「当たり前に運ばれてくるわけではない物流」の背景には、沈没・座礁・火災・衝突といった海難や、紛争や海賊などの社会問題もあります。また、コロナ禍の影響として、船内の感染予防対策という新たな負担だけでなく、各国のロックダウンのため乗組員がなかなか上陸できず、交代できないといった問題も生まれています。「安全は努力の結晶」であること、「海の平和」が保たれてこそのスムーズな海運であることを具体的にお話いただきました。
出典:日本郵船株式会社
https://www.nyk.com/news/2021/covidinfo_20210625_01.html
船に関わる仕事のうち、船員さんたちを「海上職」といいます。さらに役割から機関士(エンジニア)と航海士に分けられます。機関士は数百を超える機器が故障しないように見守り、必要に応じた整備や修理を行い、航海士は船の操縦、荷役(貨物の積み込みや荷下ろしなど)、船体整備を担います。お互いを信頼しあい、チームとして、もうひとつの家族として、船を動かしていきます。
4~6ヵ月まとめて働き、2~3ヵ月まとめて休む生活サイクルは、船員さんたち独特の働き方でしょう。以前、労働基準法について調べた時、船員業はその適応外であると知ってビックリしたことが。船員の標準的な働き方が労働基準法には当てはまらないためで、船員の労働条件は「船員法」という別の法律によって守られています。
船の生活はそのまま船員の仕事場でもあり、暮らしでもあります。ジムやレクリエーションルーム、食事についても写真を交えながら説明いただきました。文化的・宗教的背景に配慮しつつ、定められた1日に必要な栄養素の量を満たせるよう、厨房専任スタッフが腕を振るうそう。
環境対策
もう1つ、事前に参加者の皆さんから大きな関心を寄せられたのが、環境に対する取り組みです。船は移動しながら国をまたぐので、国単位で目標設定する京都議定書やパリ協定などの対象外。大気汚染防止、温暖化防止、海洋環境保全について、国際海事機関(IMO)が定める環境対策に従っています。
出典:日本船主協会
https://www.jsanet.or.jp/GHG/pdf/summary.pdf
船便は他の輸送と比べて輸送効率の良いエコな輸送です。貨物1トンを1マイル輸送するのに排出されるCO2 は、飛行機約2265gのところ、大型コンテナ船だとたった約8g。さらに減速航海して燃料を減らすとさらに排出量は減らせます。さまざまな努力を積み重ねて、2000年と比べると2020年は25%も減らせたそう。
この事実に驚いた参加者の方は多く、たくさんの感想が寄せられました。
「船便は安いけど、時間がかかる」という認識しかなかった。でも飛行機と比べてこんなにもCO2排出量が違うのが分かったら、時間・金額に加えて「環境負荷」という選択基準ができるんじゃないかと思った。急ぐ必要がない荷物だったら、極力環境負荷のない方法で運びたい、と思う人もいるのでは。
生活者として大事なのは、まずは「知る」こと。知ることで、新しい「判断」基準ができ、それに合ったサービスや商品を求めるようになります。だから、企業や業界は「知らせること」が大事で、それによって新たな事業につながる可能性も生まれます。物流に限らずどんな業界にあっても、今や温室効果ガス排出削減は事業継続の必須条件。効果的な対策とビジネスを両立させるヒントがここにあるのでは、と思いました。
「どこで、誰が、どんふうに働いているのか」が分かること
これまでBtoB(企業対企業のビジネスモデル)で黒子を自任していたNYKの皆さま、「こんな話は面白いんだろうか?」と、直前まで不安があったそう。当日のチャット欄や交流タイムでの盛り上がりや終了後のアンケート結果に、感激されていました。振り返りミーティングの際、話題に挙がったのが、「もっと子どもたちにも伝えては?」ということ。
大人であっても、自分たちの生活を支えてくれているのに知らない仕事がいっぱい。子どもたちだったらなおさらです。かつて、自営業の占める割合が多かった時代には、親やご近所の身近な大人たちがどんなふうに働いているのか、どんな仕事があるのかを目前に見ることができました。今は企業に勤めるサラリーマンが主流となり、子どもたちにとって、多くの仕事は見えないものに。教育現場での発達段階に合わせたキャリア教育の必要性が文部科学省で提唱されているのも、そのためです。
大人たちが自分の仕事を語ることって、大事だなあと思いました。そうすることで、子どもたちが将来の夢として、自分の仕事を選択肢にするかもしれない。それは大人にとっても、働き甲斐につながるのではないでしょうか?
フェアトレード団体が大切にする10の指針のひとつ「生産背景の透明性を保つ」は、言い換えれば、「どこで、誰が、どんふうに働いているのか」が分かること。お互いが支え合い、繋がり合って、自分たちの暮らしを成り立たせていること。それがより明確になれば、誰もがもっとわくわくした、感謝に満ちた日々を送れるのでは。
盛りだくさんの内容でしたが、それでも今回だけでは船会社の陸上職のお仕事や、港に着いてからの動き(通関、倉庫や店舗への陸上輸送 etc.)など、お話できていないことがいっぱい。貿易業務には、関わる人がまだまだたくさんいるのです。いつか「顔の見える物流」第2弾としてお伝えできれば、と思っています。
▼「顔の見える物流プロジェクトスタート」についてはこちら
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