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記事: 教育は、未来への投資
~インドとバングラデシュの教育プロジェクト進捗報告~

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教育は、未来への投資
~インドとバングラデシュの教育プロジェクト進捗報告~

毎年6月12日は、「児童労働反対世界デー」。
児童労働をなくそう!と世界中で一斉に呼び掛けるために国際労働機関(ILO)が定めました。

児童労働とは、義務教育を妨げる労働や、法律で禁止されている18歳未満の危険で有害な労働のこと。児童労働は、他の多くの社会問題の原因であり、結果でもあります。そのため、児童労働問題の解決はさまざまな問題の中でも急務であると捉えられ、2030年までに達成を目指すSDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のターゲット7で「2025年までにすべての形態の児童労働を撤廃する」と、全体に先んじて達成する目標が立てられました。

グローバル・ヴィレッジは、児童労働問題の解決を目指す日本のNGOや労働組合等のネットワークである「児童労働ネットワーク」の一員として、またフェアトレード事業を行う「ピープルツリー」の母体NGOとして、児童労働の問題を広く伝え、解決への参加を呼び掛けています。
また、ピープルツリーのフェアトレード生産者パートナーであるインドの「タラ・プロジェクト」、バングラデシュの「タナパラ・スワローズ」が運営する教育プロジェクトを支援することで、子どもたちに学びの場を提供しています。

この二つのプロジェクトの近況をお届けします。

 

インド、アグラの教育センターが再開!

タラ・プロジェクトは、インド北部で手工芸品やアクセサリーの生産プロジェクトによって小規模生産者の収入向上を支援する、世界のフェアトレード運動の先駆者的存在。貧困地域の児童労働をなくすため、教育の大切さを伝える啓発活動を行いながら、義務教育を補完するための教育センターを運営しています。
ピープルツリー/グローバル・ヴィレッジは、タラ・プロジェクトへの継続的な発注と、そのアクセサリーの売上に応じた寄付により、アグラにある教育センターの運営を支援しています。

ソープストーンと呼ばれる石を加工する産業が盛んなアグラでは、大人の多くが石細工やその他の不定期の仕事についており、収入が不安定で貧困に苦しんでいます。
義務教育が無償で提供されるインドでも、貧しい家庭では文房具や制服などの費用がまかなえなかったり、親が教育の意義を理解していないなどの理由で、学校に通っていない子どもや途中でドロップアウトしてしまう子どもが多くいます。
タラ・プロジェクトの教育センターでは、こういった子ども達を対象に、宿題を手伝ったり教育を受ける意義や権利を教えたり、文房具や通学バッグを無償提供するなどして、学校に通う後押しをしています。時には子ども達の親を招いて教育の大切さを学んでもらうこともあります。

センターでの授業は、教育の大切さなどを伝える啓発が中心で、年齢の違う子ども達が同じ教室で授業を受ける

補講用の教材や文房具が無償で配られる

 

2020年から2022年の2年間は、新型コロナウイルスの感染拡大によって教育センターの活動も休止を余儀なくされ、その間の寄付はコロナ禍で仕事を失うなどして困窮した家庭へ支援物資の提供に役立てられました。

2022年半ば、感染拡大が収まったことからアグラの教育センターも活動が再開されました。
現在センターに通っている子どもは6歳~12歳の50人。コロナ禍前の95人に比べればまだ少ないものの、教育の意義への理解が広まるにつれて数が増えるものとタラ・プロジェクトは期待しています。

プロジェクト・マネージャーのヴィカスさんによれば、学校に通っていない子ども達の親は、必ずしも貧しいために子どもを学校に通わせないのではなく、教育の大切さを理解していないことが多いのだそうです。学校に通わせるよりも、今日の日銭を稼がせることを優先してしまうのです。しかし、読み書きすら十分にできないまま大人になると、仕事の選択肢が狭まるうえ、正当な雇用契約や労働者の権利を主張することもできず低賃金や劣悪な労働環境に甘んじることになり、貧困の連鎖が続いてしまいます。

子ども達自身とその親が、教育の大切さを認識すること、そして子ども達がまずきちんと義務教育を受けられるよう応援すること。こういった一歩一歩の地道な活動こそが、貧困の連鎖を断ち切るための着実な解決方法といえるのではないでしょうか。

 

バングラデシュ、タナパラ・スワローズのプレスクールでユニフォーム完成

バングラデシュ北西部のタナパラ村で活動する「タナパラ・スワローズ」は、村の女性たちの働く場として手織りや手刺繍の衣料品をはじめとするフェアトレードの製品づくりを行うほか、女性の地位向上のための研修、有機農業の普及などさまざまな地域開発プロジェクトを実施しています。

活動開始直後の1976年から、貧しい家庭の子どもたちに学べる場を提供するために小学校を運営していました。近年はバングラデシュ全体で経済成長が続き貧困家庭が以前より減ってきたこと、2021年から政府が公立学校の就学率を高めるための助成制度を始めたことなどで、当初の役割をいったん終えて2022年末に閉校しました。
しかし、公立学校では正規の訓練を修了した教員が全体の7割しかおらず、授業の質や生徒のケアにばらつきがあるため、十分な教育が受けられないと考える親も多くいました。そこでスワローズ小学校は2024年から、少人数で質の高い教育を受けられる場として再開することになり、助走期間として未就学児が通うプレスクールが2023年1月にオープンしました。グローバル・ヴィレッジは、クラウドファンディングを実施して賛同いただいた方々の支援金を送ることで、この再スタートを支えました。

現在、プレスクールには5歳児が18人、4歳児が8人通い、国語(ベンガル語)と英語、算数の3教科を、言葉遊びなどを交えて楽しみながら学んでいます。
3月には、新たなユニフォームが子ども達に配られました。以前の小学校のユニフォームからデザインを一新し、タナパラ・スワローズの縫製部門で仕上げられたものです。
5月には、初めての「試験」も実施されました。

元気いっぱいの子どもたち。新しいユニフォームを着て嬉しそう

初めての試験で緊張気味の子どもたち

 

ひとつ残念な出来事は、校長として迎えたアティクル・ラーマンさんが、自身が経営する塾の仕事との両立が難しくなり職を離れたことです。
アティクルさんからバトンを受けとったのは、ソジブ・ラーマンさん。3月に教員の1人スライア・カトゥンさんが体調を崩したため、臨時教員として採用されました。私立学校で4年間の教員経験を持つソジブさんの仕事ぶりを評価したタナパラ・スワローズ代表のライハン・アリさんは、スライアさんが健康を回復して復職できることになったため、校長の重責をソジブさんに任せることにしたのです。

新校長に抜擢されたソジブ・ラーマンさん

 

スワローズ・スクールの再出発はまだ試行錯誤が続きますが、学びたい子ども達とその家族のために、「村の学び舎の灯を消さない」というライハンさんの強い想いは揺らぎません。

46年間守り続けた学びの場は、何百人もの村の子ども達に、自分で自分の人生を切り拓く自信を与えてきました。卒業生であったアティクル前校長のように、高等教育を受けて自分で起業した人もいれば、タナパラ・スワローズの生産部門で仕事を得ている人もいます。

学びを得ることで、子ども達は単に読み書きの基礎学力を身に付けるだけでなく、無限の可能性に挑戦する力を得るのです。

インドとバングラデシュのこの二つの小さなプロジェクトから、一人でも多くの子ども達が持てる力を最大限に伸ばして羽ばたいてゆくことを願っています。