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記事: 長引くコロナ禍… できることを一歩ずつ

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長引くコロナ禍… できることを一歩ずつ

日本でもなかなか収束が見えないコロナ禍ですが、4月以降、ピープルツリーの生産者パートナー国では感染の再拡大が深刻になっています。特にインドでの爆発的な感染拡大は日本でもたびたび報道され、私たちも心配していました。

インドの生産者パートナー「タラ・プロジェクト」のムーン・シャルマさんから、活動拠点であるデリーやウッタルプラデシュ州の状況悪化を知らせる最初のメールを受け取ったのは4月19日のこと。
「1日あたりの感染者が20万人を超えており、爆発寸前の危険な状態です。ここ数週間で規制が強まり、週末は完全なロックダウンが実施されましたが、状況は改善していません。

変異株の感染拡大はすさまじく、病院は生死の境をさまよう患者であふれています。

私達の親戚や友人の何人かがこの恐ろしいウイルスに捕まり、命を落とした人もいます。病院では酸素吸入装置や薬が不足し、一台のベッドに2-3人の患者を寝かせたり、床に寝かせたりしているところすらあります。医療体制は完全に崩壊しています。

ありがたいことに、タラ・プロジェクトが提供した酸素集結装置で何人かの患者を救うことができました。市販の薬を入手するのも困難で、なんとか伝手を頼って錠剤をいくつか入手しましたが価格は何倍にも上がっていました。

私達の活動も完全にストップしています。事務所も生産拠点も、部分的な稼働もできなくなりました。稼働が許されるのは緊急サービスのみです。メールと携帯はつながりますので、また状況をお知らせします」
翌日4月20日からデリーはロックダウンに入りました。

当初26日までとされていた期限が5月まで延長されたことを知らせるムーンさんのメールは、さらに深刻な状況を伝えていました。
「1日あたりの感染者数は35万人以上、死者は2,600人を超えています。家でもマスクを着けるようにと言われています。

残念ながら、タラ・プロジェクトの生産者グループで10人以上の職人が感染しました。仕事はほぼ止まっています。何日か事務所に出向いてサンプルの状況を確認してみようと思っていますが、職人が誰も来られずマーケットも閉まっているので、時間がかかると思います」
その後、デリーのロックダウンは再三延長されました。5月7日をピークに新規感染者数や死者数は減っています。しかし、5月24日のムーンさんからのメールは、ロックダウンのさらなる延長の知らせでした。

「感染者数が減っているので今週からロックダウンが緩和されて仕事を再開できるかと期待していましたが、デリーの病院に患者が集中していることから州政府はさらにロックダウンの延長を決めました。

交通機関は生活必需品の運送など以外は規制されており、今週もサンプルを完成させることができません。来週こそ発送できるよう、ベストを尽くします」

2020年7月、コミュニティの貧困家庭に食料を配布するムーンさん(左)

現在、タラ・プロジェクトのコミュニティセンターでは、基本的な医療や健康支援を提供する施設を開こうと準備を進めています。
ピープルツリーではこのプロジェクトへの支援と寄付を検討中です。
昨年の今頃、インドやバングラデシュ、ネパールなどのピープルツリーの生産者パートナーたちは、ロックダウンの影響を受けて仕事を進められなくなり、職人たちが収入を得られないという困難に直面しました。その苦境の中で、フェアトレード団体の多くはスタッフや職人たちが日々の生活に困らないよう、休業手当を支払ったり出来高払いの賃金を前渡ししたり、さらには困窮する職人の家族や近隣の貧困家庭に食料や医療品を配布してコミュニティの支援活動をサポートしていました。グローバル・ヴィレッジ/ピープルツリーでは、緊急支援のクラウドファンディングを実施して生産者パートナーたちの活動を支えました。

いま、事態は再び悪化しています。

しかし、パートナーたちから届くメッセージからは必ずしも不安や悲観ばかりではなく、いかに自分たちが工夫をこらして事態を乗り切ろうとしているかの前向きな姿勢が伝わってきます。

例えば、バングラデシュでも4月14日にロックダウンが発令され、同国で最大の祭日である、断食明けの祝宴『イード・ウル・フィトル』を開くこともできず、5月31日まで延長されていますが、北西部のタナパラ村で活動する「タナパラ・スワローズ」からはこんな報告が届いています。
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ロックダウンでほとんどの機関が活動を停止していますが、私達の工房では限られた範囲で生産を続けています。2021年秋冬製品の生地の織り作業をスタートさせました。サンプル制作や縫製、刺繍の仕事も継続しています。

ロックダウンの効果が見られて感染率は徐々に下がっているようです。私達の村はインドと国境を接しているので、インドで広がっている感染力の強い変異株に十分注意して、ソーシャルディスタンスを徹底して作業を進めています。

私は5月19日にはオフィスに出勤する予定です。秋冬製品は予定通り出荷できると思います。

タナパラ・スワローズ
マネージャー マイヌル・ハク・サントゥ

2020年11月、タナパラ・スワローズの工房にて。女性たちが着ているのは、感染リスクを低減するためにつくったユニフォーム

 

ピープルツリーにニット製品を届けてくれるネパールのクムベシュワール・テクニカル・スクールからも、懸命に活動を続けている様子が届きました。

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コロナウイルスの感染が再び拡大していて心配です。同僚の一人が感染してしまいましたが、幸い回復しました。隣国のインドほど深刻ではありませんが、感染者の増大に伴って病院で治療を受けることが難しくなっています。酸素吸入装置の不足が原因で命が助からなかった人もいます。誰もが友人や親戚の誰かに感染者がいるほど、感染が広がっています。私達の親戚で亡くなった人もいます。

ビジネス界や海外在住のネパール人コミュニティから、酸素機器や薬品を買うための支援金が寄せられています。

感染拡大を防ぐために企業活動はすべて停止しており、私達のオフィスもクローズしています。昨年のロックダウンの時は、ごく限られたスタッフだけで仕事を進めましたが、今年は違います。ロックダウンに備えて、ニッター(手編み職人)たちに前もって毛糸を渡す手配をしたのです。その結果、ほとんどのニッターは5月末までの1ヵ月間、自宅で仕事ができます。

生産以外の社会活動では、始まったばかりの職業訓練はロックダウンによって中止せざるを得ませんでした。小学校の運営も影響を受けています。オンラインで授業をしようにも、貧しい家庭の子どもが多いために自宅でパソコンやインターネットの設備がないケースがほとんどです。先生たちはなんとか子どもたちの学びを止めないようにと、自宅でできる宿題を出してひんぱんに生徒やその親と電話で連絡を取りながら指導しています。4、5年生のクラスではメッセンジャーグループをつくってオンライン授業を試みるなど、この不自由な状況で精一杯できることを工夫しています。

クムベシュワール・テクニカル・スクール
サティエンドラ・カドゥギ

コロナ禍の前の日常(2019年1月)

 
インド、バングラデシュ、ネパールとも去年以上に厳しい状況に置かれていますが、それでも生産者パートナーたちは悲観することなくできることを探りながら一歩ずつ前を進んでいます。

5月31日まで予定されている3ヵ国でのロックダウンが、その後どうなるかはまだ見通せません。生産者パートナーたちは必死に、制約の中でできることをひとつひとつ実行し、フェアトレードの活動― 商品をつくることを通じて職人たちが収入を得られるようにすること― を絶やさないようにしています。

フェアトレード・パートナーとして、私達は職人たちの想いがこもった商品を買い手であるお客様にお届けし、次シーズンの発注をして職人たちの暮らしを支えていきます。

立場の弱い生産者に寄り添い、売り手と買い手が互いに敬意をもってパートナーシップを築くフェアトレードの重要性は、このコロナ禍でますます重要になっています。この困難を、手を取り合って乗り越えていきたいと、思いを新たにしています。