【フェアトレードの学校レポート】 フェアトレードで負のサイクルを断つ ~フィリピン・プレダ基金の活動~
広報啓発担当のスズキです。8月22日(日)に自由が丘店にて、フェアトレードの学校を開催しましたので、レポートします。
●イベント概要はこちら→ Peatixページ
ピープルツリーのロングセラー商品、「ドライマンゴー」が初めてカタログに登場したのは1996年のこと。
当時のカタログは薄く、衣類はTシャツぐらい、雑貨と食品がほとんどを占めていて、今とはだいぶ品ぞろえが異なります。ドライマンゴーは、チョコレートと同様にピープルツリーの歴史を語るうえで、欠かせない人気商品です。
そんなドライマンゴーを届けてくれているのは、フィリピンのプレダ基金。People’s Recovery Empowerment and Development Assistance 「人びとを癒して生きる力を与え、社会復帰と自立、発展を支援する」の頭文字をとって、「PREDA」です。1969年に宣教師としてアイルランドからフィリピンに赴任したシェイ・カレン神父が、1974年にルソン島中部、オロンガポ市で設立しました。
© Mayumi Ishii / People Tree
主な活動として、児童労働や虐待を受け傷ついた子どもたちの救出と保護、仕事のない若者や大人が収入を得て自立するためのフェアトレード、そして地域の社会課題を解決するための政策提言をしています。こうした活動から、カレン神父は2018年までに4回ノーベル平和賞の候補になりました。
8月のフェアトレードの学校は、このカレン神父のブログを日本語に翻訳して発信したり、現地の活動を支援しているMIKIKOさんをゲストに、お話を伺いました。MIKIKOさんの活動の出発点は、カレン神父について本で知ったこと。「とんでもない人がいる!」と感激し、現地まで会いに行ったそうです。
★日本語訳した記事はこちら→ https://ameblo.jp/rosemarycandle/
心に傷を負った子どもたちのケア
MIKIKO:初めて行ったのは2018年。最初に、プレダでいちばん効果を上げているセラピーという「エモーショナルリリースセラピー」を見学しに、プレダの宿舎「ガールズハウス」を訪れました。
ここにいる子たちの9割以上は、性的虐待を受けたり、買春の相手をさせられたりしながら、恥ずかしさや家族を殺されると脅されたりして、自分の身に起きたことを言わずに我慢しています。その傷を抱えたまま、普通の生活に戻ることはできない。そこで、このマットだらけの部屋の中だけは何を叫んでもいい、何をしてもいいというルールで自分を解放する セラピーなんですね。
少女たちは最初、みんなニコニコ部屋に入ってくるのですが、セラピーが始まると虐待者に対する怒り、恐怖、なんで自分を売たんだ!と親に対する怒りや恨みを吐き出します。叫ぶ子もいれば、大暴れする子もいる。だからマットが、部屋中の壁や床に置かれているんですね。部屋から出てくるときには、みんな涙を流しているんですが、スッキリした顔をしています。
スズキ:子どもらしい日常を取り戻す、楽しいプログラムもあるそうですね。週末に、海や山へリクリエーションにでかけたり、ダンスや演劇などを楽しんだり。
生きていくために罪を犯してしまった子たちの保護・ケア
スズキ:衝撃的な写真かもしれませんが、まだ年端もいかない子どもたちが牢屋に入れられています。 帰る家のないストリートチルドレンなどが、生きるためにやむなく罪を犯して捕まり、大人の犯罪者と一緒に牢屋に入れられることで、もっと悪い道に引きずり込まれてしまうという可能性もある。そうならないためにも、スタッフたちは少しでも早く、牢屋から子どもたちを保護する活動をしています。
MIKIKO:2019年に、ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅施策で、麻薬の運び屋となっている子どもを捕まえたら麻薬の売買はできないという安易な考えから、厳罰を与える年齢を15歳から12歳に引き下げようとする法案が出たことがありました。
スズキ:カレン神父が反対活動をして、MIKIKOさんも反対署名を呼び掛けてくださったんですが、結局、政治的な理由でうやむやになって、そのまま。でも、大統領の命令があれば、いつまた復活してしまうか分からない状況です。
MIKIKO:問題の連鎖を考える上で、お話したいことが。国際的に、子どもの年齢は18歳までとされていて、それまではさまざまな支援を受けられますが、大抵どこの国のどこの施設も18歳になると出ないといけないんですね。
私の息子、今は二十歳なんですけど、18歳になった時にポイっと社会に出して生きていけるかと言ったら、日本でも厳しいと思って。ましてやトラウマを抱えて、親や兄弟もいない子たちに起こることは2つなんですよ、ストリートに戻るか、女の子は買春の相手をするか。そこの支援が手薄だなと私はずっと思っていて、支援プロジェクトを2019年に立ち上げました。
保護した後のストリートチルドレンの教育として、英語を学んだ、パソコンが使えるようになったといっても、大卒でさえ競争率が高くて就職が難しい社会で、犯罪歴のある彼らが雇われるかと言ったら現実味が低い。だから、鶏を今3羽飼っている子に、あと何羽いたら家族が暮らしていけるの?そのためのお金を出すから、家族みんなで育てて、卵を売るなり、肉を売るなり、どんどん数を増やしていけば……そういう現実的な支援プロジェクトが大事だと思うんですね。
そしてお金が入った時に、そのお金をどう管理していくのかも教育して。得たお金をすぐに使っちゃうんじゃなくて、将来のために貯蓄しておく、そういう習慣を身に着けてほしいなと。今は(コロナ禍で)私が現地に行くことが出来ないのでプロジェクトが滞ってしまっているんですけど、行けるようになったらこんなふうに進めていきたい。
スズキ:フェアトレードの団体は、つくり手に単に仕事を提供するだけじゃなくて、その家族も恩恵が受けられるように託児所や教育センター、医療サービス などさまざまなサポートをするのですが、フィナンシャルプランナーのような役割を果たしている場合もあります。お金をどう人生に役立てていくのか?を考えるには、やっぱり教育が大事なんですよね。そのあたり、日本人も弱いところですが……
インターネットの監視
スズキ:日本でも問題になっていることですが、ネットを通じて児童ポルノや犯罪など、子どもが守られていない状況があるので、それを監視している様子です。
MIKOKO:コロナ禍でフィリピンの売春宿が軒並みクローズしてしまったんですよね。それでネット上に子どもたちに性的虐待を加えているライブ動画を海外の顧客に売る、という方向に変わってしまい、逆に見つけづらくなってしまった。今、カレン神父たちもプロバイダを相手に闘っているんですけど、なかなか難しい。被害を受けている子どもたちは確実に何倍、何十倍と増えていて、それはコロナ禍で全世界的に報告されている状況です。
スズキ:児童ポルノは「最悪の形態の児童労働 」とされていますが、児童労働が世界的に急増しています。4年ごとに統計をとっていて、今年の6月に発表された最新情報では、世界中で1億6000万人。2000年の統計開始以来初めて、増えてしまったんですね。しかも統計にはまだコロナ禍の影響は反映されていないそうなので、4年後にどれだけ増えてしまっているのか恐ろしいです。だからこそ、出来ることをしていく必要がある。
負のサイクルを断ち切る手段として、フェアトレード
スズキ:プレダ基金のさまざまな活動を支えるのが、フェアトレードの仕組み。具体的には、農家からマンゴーを適正価格で買って、それをドライマンゴーに加工して販売することで資金を得ています。
そのマンゴーを育ててくれているのが、先住民族のアエタ族。ルソン島・ピナトゥボ火山のふもとで暮らしていたが、噴火の影響で住む場所を奪われてしまった。移住先で生活に困った彼らに、カレン神父がマンゴーを育てることを提案したんですね。
MIKIKO:アエタ族にも会いに行きました。
MIKOKO:これ、なんだと思います? 乾煎りして、身を取り出してもらって初めて分かったんですが、カシューナッツなんです。売り物とは全然違うおいしさでした。
スズキ:こんなふうに実の外に食べられる部分があるんですね! 初めて見たので興奮しました。
経済至上主義の世の中で、アエタ族のような森と共に暮らすなどの伝統的な生活様式は、開発したい企業や政府の意向と相入れない。でも、弱い立場にいるのは、常に先住民族のほうなんですよね。だからフェアトレードでそういう方たちを支援していくのも、大事な活動です。
MIKIKO:これは焼き畑農業の現場ではなく、森林を伐採して開発したい企業が先住民族を追い出すために火をつけた跡なんですよね。
お客さま:企業というのは、フィリピンの企業のことですか?
MIKIKO:いえ、多国籍企業ですね。ほとんどが、フィリピンから輸入している側の企業です。
スズキ:だからといって、多国籍企業が直接的に手を下しているわけではないですね?
MIKIKO:企業と政治家はつながっていて、政治家は手下がたくさんいて、その末端に犯罪組織があって、数千円程度のお金で殺人まで請け負ってしまう。それだけお金に困っているということですが…だから、お金をもらえたら何ヵ所も焼いてきちゃう人がいるような現状です。
スズキ:こういうことは、大本の多国籍企業は預かり知らぬことかもしれない。でも、そもそも自分たちの都合を一方的に押しつける契約が原因で、下っ端が無理をする、その無理の末に犯罪があるのだとしたら、そこがフェアじゃない。
MIKIKO:プレダ基金の「ボーイズホーム」に通う男の子のお父さんが、刑務所から出てきたばかりとのことで話を聞きに行きました。彼もめちゃくちゃ悪人かというと、そんなことはなくて穏やかで、やむにやまれぬ事情があったんだろうなと思いました。
2畳くらいの広さに、9人の家族全員が住んでいました。床にスノコのようなものが置かれていて、汚れを垂れ流す。赤ちゃんがおむつをしなくてもほっといておけるので、その間にお母さんたちがゴミ拾いに行ってお金に換えたりできるわけですね。でも、衛生状態は当然良くなくて、上の子は皮膚がただれちゃっていた。
野菜を育てて売ることをスタッフが何度も提案していたんですが、収穫されるまでは、収入がない。収穫したら、ごみ拾いで得られる日銭の何十倍、何百倍の収入になるよと言っても、それが理解できないから、待てない。それもお父さん・お母さんたちに教育の機会が与えられなかったということが問題なんですね。なので、ホームに通う男の子にはお金の回り方をしっかり学んでほしいと思って、プロジェクトを進めています。
フェアトレードのお買いものでできること
スズキ:こうしたさまざまな問題をフェアトレードで解決していく、という前提でお話を進めてきましたが、フェアトレードって何?ということを、ここでしっかり共有しておきます。
フェアトレードは、みんなが幸せに暮らせるように、貧困問題と環境問題をビジネスの仕組みで解決しようという活動です。
公正な賃金を支払うことだけがフェアトレードだと定義していると、児童労働をさせないとか、男女平等とか、安全な労働環境とか、どういう関係があるのかピンと来ないかもしれない。でも「みんなが幸せに暮らせるように」という大きな目標のためだと分かれば、すべてがつながっていると理解しやすいと思います。「ビジネスの仕組みで」というのもポイントで、問題解決の手段がいろいろある中で、通常の経済活動の中で人や地球に配慮していこうということです。
マンゴーを適正な価格で買って、作ってくれている人たちが生活できるようにするフェアトレードの活動も、買う人があってこそ。
プレダの活動を支援したい!と思ったら、プレダ基金のつくるドライマンゴーを買うことで、その意思表示ができる。つまり、お買いものは「投票行為」。作ってくれた人や会社を応援することができるんですよね。だから価格だけでなくさまざまな基準を持つと、お買いものはもっと楽しくなると思います。
自分の「好き」を起点に
スズキ:最後に、カレン神父に興味を持ってフィリピンまで会いに行ってしまったMIKIKOさんの原動力について聞いてみたいです。本業は別にお持ちで、完全にボランティアなんですよね?
MIKIKO:正社員として建設会社に勤務しつつ、非常勤講師として日本語の指導も行っています。考えてみたんですけど、人を幸せにするのが好きなんですよね。出会った子どもたちやスタッフが笑顔になってくれることとか。
あと、やりたいことをどうやっていくのか。就職活動だと、相手の企業が求めていることに自分を合わせていくことになるけれど、ボランティアやライフワークとして長く続けていくのなら、視点は180度逆で、自分に何ができるか、何がやりたいのかをまず考えた。
プレダの場合も、求められているのは子どもたちのそばにいてケアすることだろうけど、タガログ語もできないし、セラピストでもないし、子どもたちと心の深いところでの交流は専門のスタッフがやったほうがいい。じゃあ、日本人の私に何ができるの?と自分に問いかけたときに、カレン神父に「日本人のツアーが見学に来るからMIKIKOに通訳をしてもらえないか」って言われて、それだ!と。
私は翻訳家でもあるので、カレン神父の書いた記事を日本語に翻訳して発信することができると。で、やらせてほしいと言って、今、3年くらいが経ったところですね。日本の神父さん初めたくさんの人にも感謝されて、記事を広めたい、使いたいと言ってもらえて、私も翻訳が好きだからこんなに続けていられるのかな、と。
あと、好きで続けられるっていうことで言うと、私は格闘技が趣味でして。そこで考えたのが、エモーショナルセラピーは女の子や子どもだったら効果的なんですけど、15、16、17と年齢がいった男の子には難しい。恥ずかしくってやってられるかよ、ってなっちゃう。だけど彼らも確実にトラウマを抱えているから、なんだかんだ喧嘩が多いんですよね。その発散方法として、格闘技ってよくない?って。今度行ったときにサンドバッグをプレゼントして、キックボクシングを教えてあげて、ストレスがたまった時にサンドバッグを蹴るようにできたらいいんじゃないかなーと思っています。
スズキ:まさに、ボランティアですね! ボランティアは無償という意味ではなく、本来は「自発的」とういこと。MIKIKOさんの活動は、自分の好き、やりたいから生まれた自発的な行為ですね。
MIKIKO:そう、だからずっと続けられる。多分、やめろと言われても止まらない。求められていることに合わせると、いつか苦しくなっちゃうかもしれない。だから好きなことをそのままできるのは、ボランティアの強みで、妥協する必要はない。でも、そうするには自分の生活が成り立ってしていることが絶対条件で、そこがグラグラしていたら人なんて助けられない。自分の足元が固まったうえでの、ボランティア。好きだから元気なんだと思います。
スズキ:カレン神父もお元気ですよね。精力的に活動しているから、さらにエネルギーが湧いちゃうみたいな。
MIKIKO:カレン神父は身長も180センチくらいあって、とにかく存在が大きい。柔らかくて優しい方なんですけど、エネルギーが圧倒的。2人で話し始めたら情熱が止まらず、延々とスパーリングが続くような感覚。エキサイティングな会話ができて、すっごく楽しい。
スズキ:全員が同じことをする必要はなくて、これはMIKIKOさんのやり方。マザー・テレサは、世界中からインドにやってくるボランティアに向かって、「まず自分の隣人を愛せよ」と言った。わざわざインドやフィリピンに行かなくても、あなたの周りにも課題はあるはず。いつもニコニコして、周りの人を幸せな気持ちにすることも、立派な社会貢献。学生さんなら勉強するとか、家族やお友達と仲良くするとか、まずはそれぞれの立場で出来ることをするのがいいと思います。
MIKIKO:自分が幸せでいることがまず大事。自分が幸せだから周りにも幸せのおすそ分けができる。
スズキ:幸せでいる人っていきいき生きているから、見ている人にもエネルギーをくれますよね。足を引っ張る側になるんじゃなくて、自分も好きなこと、やりたいことで周りにいい影響を与えていけるような、そんな循環の起点になるような生き方が出来たら、どんなやり方でもどんな内容でもいいのでは、と思います。
今日はそんなパワーをいただけるお話をありがとうございました。
★プレダ基金のドライマンゴー
●イベント概要はこちら→ Peatixページ
ピープルツリーのロングセラー商品、「ドライマンゴー」が初めてカタログに登場したのは1996年のこと。
当時のカタログは薄く、衣類はTシャツぐらい、雑貨と食品がほとんどを占めていて、今とはだいぶ品ぞろえが異なります。ドライマンゴーは、チョコレートと同様にピープルツリーの歴史を語るうえで、欠かせない人気商品です。
そんなドライマンゴーを届けてくれているのは、フィリピンのプレダ基金。People’s Recovery Empowerment and Development Assistance 「人びとを癒して生きる力を与え、社会復帰と自立、発展を支援する」の頭文字をとって、「PREDA」です。1969年に宣教師としてアイルランドからフィリピンに赴任したシェイ・カレン神父が、1974年にルソン島中部、オロンガポ市で設立しました。
© Mayumi Ishii / People Tree
主な活動として、児童労働や虐待を受け傷ついた子どもたちの救出と保護、仕事のない若者や大人が収入を得て自立するためのフェアトレード、そして地域の社会課題を解決するための政策提言をしています。こうした活動から、カレン神父は2018年までに4回ノーベル平和賞の候補になりました。
8月のフェアトレードの学校は、このカレン神父のブログを日本語に翻訳して発信したり、現地の活動を支援しているMIKIKOさんをゲストに、お話を伺いました。MIKIKOさんの活動の出発点は、カレン神父について本で知ったこと。「とんでもない人がいる!」と感激し、現地まで会いに行ったそうです。
★日本語訳した記事はこちら→ https://ameblo.jp/rosemarycandle/
心に傷を負った子どもたちのケア
MIKIKO:初めて行ったのは2018年。最初に、プレダでいちばん効果を上げているセラピーという「エモーショナルリリースセラピー」を見学しに、プレダの宿舎「ガールズハウス」を訪れました。
ここにいる子たちの9割以上は、性的虐待を受けたり、買春の相手をさせられたりしながら、恥ずかしさや家族を殺されると脅されたりして、自分の身に起きたことを言わずに我慢しています。その傷を抱えたまま、普通の生活に戻ることはできない。そこで、このマットだらけの部屋の中だけは何を叫んでもいい、何をしてもいいというルールで自分を解放する セラピーなんですね。
少女たちは最初、みんなニコニコ部屋に入ってくるのですが、セラピーが始まると虐待者に対する怒り、恐怖、なんで自分を売たんだ!と親に対する怒りや恨みを吐き出します。叫ぶ子もいれば、大暴れする子もいる。だからマットが、部屋中の壁や床に置かれているんですね。部屋から出てくるときには、みんな涙を流しているんですが、スッキリした顔をしています。
スズキ:子どもらしい日常を取り戻す、楽しいプログラムもあるそうですね。週末に、海や山へリクリエーションにでかけたり、ダンスや演劇などを楽しんだり。
生きていくために罪を犯してしまった子たちの保護・ケア
スズキ:衝撃的な写真かもしれませんが、まだ年端もいかない子どもたちが牢屋に入れられています。 帰る家のないストリートチルドレンなどが、生きるためにやむなく罪を犯して捕まり、大人の犯罪者と一緒に牢屋に入れられることで、もっと悪い道に引きずり込まれてしまうという可能性もある。そうならないためにも、スタッフたちは少しでも早く、牢屋から子どもたちを保護する活動をしています。
MIKIKO:2019年に、ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅施策で、麻薬の運び屋となっている子どもを捕まえたら麻薬の売買はできないという安易な考えから、厳罰を与える年齢を15歳から12歳に引き下げようとする法案が出たことがありました。
スズキ:カレン神父が反対活動をして、MIKIKOさんも反対署名を呼び掛けてくださったんですが、結局、政治的な理由でうやむやになって、そのまま。でも、大統領の命令があれば、いつまた復活してしまうか分からない状況です。
MIKIKO:問題の連鎖を考える上で、お話したいことが。国際的に、子どもの年齢は18歳までとされていて、それまではさまざまな支援を受けられますが、大抵どこの国のどこの施設も18歳になると出ないといけないんですね。
私の息子、今は二十歳なんですけど、18歳になった時にポイっと社会に出して生きていけるかと言ったら、日本でも厳しいと思って。ましてやトラウマを抱えて、親や兄弟もいない子たちに起こることは2つなんですよ、ストリートに戻るか、女の子は買春の相手をするか。そこの支援が手薄だなと私はずっと思っていて、支援プロジェクトを2019年に立ち上げました。
保護した後のストリートチルドレンの教育として、英語を学んだ、パソコンが使えるようになったといっても、大卒でさえ競争率が高くて就職が難しい社会で、犯罪歴のある彼らが雇われるかと言ったら現実味が低い。だから、鶏を今3羽飼っている子に、あと何羽いたら家族が暮らしていけるの?そのためのお金を出すから、家族みんなで育てて、卵を売るなり、肉を売るなり、どんどん数を増やしていけば……そういう現実的な支援プロジェクトが大事だと思うんですね。
そしてお金が入った時に、そのお金をどう管理していくのかも教育して。得たお金をすぐに使っちゃうんじゃなくて、将来のために貯蓄しておく、そういう習慣を身に着けてほしいなと。今は(コロナ禍で)私が現地に行くことが出来ないのでプロジェクトが滞ってしまっているんですけど、行けるようになったらこんなふうに進めていきたい。
スズキ:フェアトレードの団体は、つくり手に単に仕事を提供するだけじゃなくて、その家族も恩恵が受けられるように託児所や教育センター、医療サービス などさまざまなサポートをするのですが、フィナンシャルプランナーのような役割を果たしている場合もあります。お金をどう人生に役立てていくのか?を考えるには、やっぱり教育が大事なんですよね。そのあたり、日本人も弱いところですが……
インターネットの監視
スズキ:日本でも問題になっていることですが、ネットを通じて児童ポルノや犯罪など、子どもが守られていない状況があるので、それを監視している様子です。
MIKOKO:コロナ禍でフィリピンの売春宿が軒並みクローズしてしまったんですよね。それでネット上に子どもたちに性的虐待を加えているライブ動画を海外の顧客に売る、という方向に変わってしまい、逆に見つけづらくなってしまった。今、カレン神父たちもプロバイダを相手に闘っているんですけど、なかなか難しい。被害を受けている子どもたちは確実に何倍、何十倍と増えていて、それはコロナ禍で全世界的に報告されている状況です。
スズキ:児童ポルノは「最悪の形態の児童労働 」とされていますが、児童労働が世界的に急増しています。4年ごとに統計をとっていて、今年の6月に発表された最新情報では、世界中で1億6000万人。2000年の統計開始以来初めて、増えてしまったんですね。しかも統計にはまだコロナ禍の影響は反映されていないそうなので、4年後にどれだけ増えてしまっているのか恐ろしいです。だからこそ、出来ることをしていく必要がある。
負のサイクルを断ち切る手段として、フェアトレード
スズキ:プレダ基金のさまざまな活動を支えるのが、フェアトレードの仕組み。具体的には、農家からマンゴーを適正価格で買って、それをドライマンゴーに加工して販売することで資金を得ています。
そのマンゴーを育ててくれているのが、先住民族のアエタ族。ルソン島・ピナトゥボ火山のふもとで暮らしていたが、噴火の影響で住む場所を奪われてしまった。移住先で生活に困った彼らに、カレン神父がマンゴーを育てることを提案したんですね。
MIKIKO:アエタ族にも会いに行きました。
MIKOKO:これ、なんだと思います? 乾煎りして、身を取り出してもらって初めて分かったんですが、カシューナッツなんです。売り物とは全然違うおいしさでした。
スズキ:こんなふうに実の外に食べられる部分があるんですね! 初めて見たので興奮しました。
経済至上主義の世の中で、アエタ族のような森と共に暮らすなどの伝統的な生活様式は、開発したい企業や政府の意向と相入れない。でも、弱い立場にいるのは、常に先住民族のほうなんですよね。だからフェアトレードでそういう方たちを支援していくのも、大事な活動です。
MIKIKO:これは焼き畑農業の現場ではなく、森林を伐採して開発したい企業が先住民族を追い出すために火をつけた跡なんですよね。
お客さま:企業というのは、フィリピンの企業のことですか?
MIKIKO:いえ、多国籍企業ですね。ほとんどが、フィリピンから輸入している側の企業です。
スズキ:だからといって、多国籍企業が直接的に手を下しているわけではないですね?
MIKIKO:企業と政治家はつながっていて、政治家は手下がたくさんいて、その末端に犯罪組織があって、数千円程度のお金で殺人まで請け負ってしまう。それだけお金に困っているということですが…だから、お金をもらえたら何ヵ所も焼いてきちゃう人がいるような現状です。
スズキ:こういうことは、大本の多国籍企業は預かり知らぬことかもしれない。でも、そもそも自分たちの都合を一方的に押しつける契約が原因で、下っ端が無理をする、その無理の末に犯罪があるのだとしたら、そこがフェアじゃない。
MIKIKO:プレダ基金の「ボーイズホーム」に通う男の子のお父さんが、刑務所から出てきたばかりとのことで話を聞きに行きました。彼もめちゃくちゃ悪人かというと、そんなことはなくて穏やかで、やむにやまれぬ事情があったんだろうなと思いました。
2畳くらいの広さに、9人の家族全員が住んでいました。床にスノコのようなものが置かれていて、汚れを垂れ流す。赤ちゃんがおむつをしなくてもほっといておけるので、その間にお母さんたちがゴミ拾いに行ってお金に換えたりできるわけですね。でも、衛生状態は当然良くなくて、上の子は皮膚がただれちゃっていた。
野菜を育てて売ることをスタッフが何度も提案していたんですが、収穫されるまでは、収入がない。収穫したら、ごみ拾いで得られる日銭の何十倍、何百倍の収入になるよと言っても、それが理解できないから、待てない。それもお父さん・お母さんたちに教育の機会が与えられなかったということが問題なんですね。なので、ホームに通う男の子にはお金の回り方をしっかり学んでほしいと思って、プロジェクトを進めています。
フェアトレードのお買いものでできること
スズキ:こうしたさまざまな問題をフェアトレードで解決していく、という前提でお話を進めてきましたが、フェアトレードって何?ということを、ここでしっかり共有しておきます。
フェアトレードは、みんなが幸せに暮らせるように、貧困問題と環境問題をビジネスの仕組みで解決しようという活動です。
公正な賃金を支払うことだけがフェアトレードだと定義していると、児童労働をさせないとか、男女平等とか、安全な労働環境とか、どういう関係があるのかピンと来ないかもしれない。でも「みんなが幸せに暮らせるように」という大きな目標のためだと分かれば、すべてがつながっていると理解しやすいと思います。「ビジネスの仕組みで」というのもポイントで、問題解決の手段がいろいろある中で、通常の経済活動の中で人や地球に配慮していこうということです。
マンゴーを適正な価格で買って、作ってくれている人たちが生活できるようにするフェアトレードの活動も、買う人があってこそ。
プレダの活動を支援したい!と思ったら、プレダ基金のつくるドライマンゴーを買うことで、その意思表示ができる。つまり、お買いものは「投票行為」。作ってくれた人や会社を応援することができるんですよね。だから価格だけでなくさまざまな基準を持つと、お買いものはもっと楽しくなると思います。
自分の「好き」を起点に
スズキ:最後に、カレン神父に興味を持ってフィリピンまで会いに行ってしまったMIKIKOさんの原動力について聞いてみたいです。本業は別にお持ちで、完全にボランティアなんですよね?
MIKIKO:正社員として建設会社に勤務しつつ、非常勤講師として日本語の指導も行っています。考えてみたんですけど、人を幸せにするのが好きなんですよね。出会った子どもたちやスタッフが笑顔になってくれることとか。
あと、やりたいことをどうやっていくのか。就職活動だと、相手の企業が求めていることに自分を合わせていくことになるけれど、ボランティアやライフワークとして長く続けていくのなら、視点は180度逆で、自分に何ができるか、何がやりたいのかをまず考えた。
プレダの場合も、求められているのは子どもたちのそばにいてケアすることだろうけど、タガログ語もできないし、セラピストでもないし、子どもたちと心の深いところでの交流は専門のスタッフがやったほうがいい。じゃあ、日本人の私に何ができるの?と自分に問いかけたときに、カレン神父に「日本人のツアーが見学に来るからMIKIKOに通訳をしてもらえないか」って言われて、それだ!と。
私は翻訳家でもあるので、カレン神父の書いた記事を日本語に翻訳して発信することができると。で、やらせてほしいと言って、今、3年くらいが経ったところですね。日本の神父さん初めたくさんの人にも感謝されて、記事を広めたい、使いたいと言ってもらえて、私も翻訳が好きだからこんなに続けていられるのかな、と。
あと、好きで続けられるっていうことで言うと、私は格闘技が趣味でして。そこで考えたのが、エモーショナルセラピーは女の子や子どもだったら効果的なんですけど、15、16、17と年齢がいった男の子には難しい。恥ずかしくってやってられるかよ、ってなっちゃう。だけど彼らも確実にトラウマを抱えているから、なんだかんだ喧嘩が多いんですよね。その発散方法として、格闘技ってよくない?って。今度行ったときにサンドバッグをプレゼントして、キックボクシングを教えてあげて、ストレスがたまった時にサンドバッグを蹴るようにできたらいいんじゃないかなーと思っています。
スズキ:まさに、ボランティアですね! ボランティアは無償という意味ではなく、本来は「自発的」とういこと。MIKIKOさんの活動は、自分の好き、やりたいから生まれた自発的な行為ですね。
MIKIKO:そう、だからずっと続けられる。多分、やめろと言われても止まらない。求められていることに合わせると、いつか苦しくなっちゃうかもしれない。だから好きなことをそのままできるのは、ボランティアの強みで、妥協する必要はない。でも、そうするには自分の生活が成り立ってしていることが絶対条件で、そこがグラグラしていたら人なんて助けられない。自分の足元が固まったうえでの、ボランティア。好きだから元気なんだと思います。
スズキ:カレン神父もお元気ですよね。精力的に活動しているから、さらにエネルギーが湧いちゃうみたいな。
MIKIKO:カレン神父は身長も180センチくらいあって、とにかく存在が大きい。柔らかくて優しい方なんですけど、エネルギーが圧倒的。2人で話し始めたら情熱が止まらず、延々とスパーリングが続くような感覚。エキサイティングな会話ができて、すっごく楽しい。
スズキ:全員が同じことをする必要はなくて、これはMIKIKOさんのやり方。マザー・テレサは、世界中からインドにやってくるボランティアに向かって、「まず自分の隣人を愛せよ」と言った。わざわざインドやフィリピンに行かなくても、あなたの周りにも課題はあるはず。いつもニコニコして、周りの人を幸せな気持ちにすることも、立派な社会貢献。学生さんなら勉強するとか、家族やお友達と仲良くするとか、まずはそれぞれの立場で出来ることをするのがいいと思います。
MIKIKO:自分が幸せでいることがまず大事。自分が幸せだから周りにも幸せのおすそ分けができる。
スズキ:幸せでいる人っていきいき生きているから、見ている人にもエネルギーをくれますよね。足を引っ張る側になるんじゃなくて、自分も好きなこと、やりたいことで周りにいい影響を与えていけるような、そんな循環の起点になるような生き方が出来たら、どんなやり方でもどんな内容でもいいのでは、と思います。
今日はそんなパワーをいただけるお話をありがとうございました。
★プレダ基金のドライマンゴー